2008年5月1日木曜日

「フィナンシャル・リスク・マネジメント」第3回レポート講評

「フィナンシャル・リスク・マネジメント」第3回レポートに対する講評のコメントです。
(レポートは連休明けに返却します。気になる部分には赤い字でコメントしてあります。私のほうで書き込みしたものを消したりしてレポートを汚くしてしまった人もいます。ご容赦ください)

発展課題1については、解答の仕方がいくつかのパターンに分かれていました。大まかにまとめると次のような感じです。
  • J.Hullの本などに紹介されているような、数理ファイナンス的な商品先物の理論式と関連させてリスク・ファクターを特定しているもの。現物価格や金利、保管コストやコンビニエンス・イールド、(現物価格を外貨ベースで採用した場合)為替レートなどが多くあげられていました。(先物価格や先渡などの用語の使い方が適切ではない感じの方がいました)
  • 特に数理ファイナンス的な理論背景には言及していないが、市場金利、株価指数、他の先物価格、商品先物指数などに連動しているという市場観に基づいてリスク・ファクターを提案しているもの。実際に回帰分析を試みているもの(結果は必ずしも良好ではなかったが)もありました。
  • 実際に数値化、ファクター化できるかどうかはともかく需給面に注目したリスクファクターの提案をしているもの。例えば、農産物の先物であれば、GDP増加率や天候、季節、単位あたり生産高のようなものを挙げていたり、原油の先物であれば在庫に注目していたりというもの。実際の価格推移データも示しながらマクロ的に考察しているものもありました。
個々の解答に対する私のコメントは赤字で書いておきました。参考まで。
全体に対するコメントとしていくつか挙げておきます。
  • 時間変化についての効果。一次近似した場合に、時間変化の感応度を無視しているものがありました。先物は限月という取引期限があるので、時間の影響も考えるのが自然のような気がします。理論式はどのようなものであれ、限月までの残り期間の関数で先物価格は表示されます。
  • 金利の対数をファクター化していた人がいます。間違いではないですし、事実そういう処理をした経験が私にもありますが、金利の変化は差でとらえる場合が多いような気がします。現物価格や為替レートは対数をとってリスク・ファクターとみなしている人が多かったです。準テキストに沿った見方でよいと思います。反対に、私がイントラネットにアップした参考資料では現物価格や為替レートをそのままファクターとして扱っていますが、対数をとって表したほうが準テキストに整合的ですね。
  • 先物価格そのものをリスク・ファクター化して、そのポートフォリオ価値を考えている人もいました。現実の市場では、現物価格を先物価格の関数として扱う方が自然な見方かもしれません。理論家のなかにも先物のほうを原資産とみなすべきという提案をしていた人もいました。
発展課題2についても、解答の仕方がいくつかのパターンに分かれていました。大まかにまとめると次のような感じです。
  • 損失の和の確率が0以下になる確率だけを、畳み込みの観点あるいは独立性の観点から計算しているもの
  • 損失の和の確率が0以下になる確率だけを、L_1, L_2 のとりうる範囲で場合わけをして個々の確率を計算しているもの
  • 損失の和の密度関数を、畳み込みの観点あるいは独立性の観点から計算してから分布関数の議論をしているもの
私がイントラにアップしたものは一番最初の立場です。畳み込みを明示的に行わず、独立性だけを使って自然な密度関数の積分計算にもちこんだつもりです。
応用上もっとも優れているのは、密度関数を求めにいくアプローチのように感じます。

0.855という答えは先に与えていたので、答えがそれに合うように方法を試行錯誤された方も多いのではないでしょうか?もし0.855を与えずに計算してもらったら、どれくらいの正答率になっていたか興味あるところです。

いずれにしても場合分けをする必要が出てきますが、多かった間違いは、その場合分けが不完全なものです。
そのほか微妙な議論の部分にはコメントをつけています。
(私が慣れている考え方と異なる解答をしている人に対しては、私のほうで勘違いしている部分があるかもしれませんので、コメントがあるからと言って自分が間違っているとは思わないでください)

私は自分では計算していませんでしたが、損失の和の密度関数をきちんと計算されていた方が2名いました。
お二人があっていたので正しいと思われます。答えを参考までに転載させていただきます。

【L_1+L_2 = l の範囲とその範囲での和の密度】
(-∞,-2], (4, +∞) のとき 0, (-2,-1] のとき 0.405, (-1,0] のとき 0.45, (0,1] のとき 0.09125,
(1,2] のとき 0.04875, (2,3] のとき 0.00375, (3,4] のとき 0.00125

また、アップした参考資料のように、和の90%-VaRが実際にいくつかを議論している人はほとんどいませんでしたが、近似値を出していた方がわずかですがいました。私の出した結果と差が無いので、私の計算はたぶんあっているのでしょう・・・

Give up した方も少なからずいましたが、特に恥じることはありません。
現実にこうした計算ができないとリスク管理ができないわけではないので。
ただ、独立な確率変数の和の分布はどう計算されるのかを、この機会に調べてみてほしいと思います。
実務的には和をとる変数の数が一般の場合には、畳み込みを直接行うよりも、Fourier変換を用いて計算する方が普通だと思います。

畳み込みの計算が詳しく説明してある参考書を紹介してほしいというコメントがありました。
いま手元にはないのですが、
 国沢 清典編「確率統計演習 1 」培風館
などは計算例がたくさんあったと思います。
たしか、アクチュアリー試験の1次の数学の参考書として以前挙げられていたような記憶があります。

他にも確率の基本的な問題集には詳しく解説などが載っていると思います。
私がよく見るような本だと具体例はあまり載っていないです・・・

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