2008年11月14日金曜日

訃報

伊藤清先生が逝去されました。例えばこちら。またはこちら
謹んでご冥福を祈りいたします。

2008年11月10日月曜日

翻訳本の出版情報(追加・修正)

私が関わってきた以下の翻訳本プロジェクトが近々形になりそうです。

Amazon には情報が載っていました。

ジョージ チャッコ, アンダース ソジョマン, ヴィンセント ダッサン, 本橋 英人著,
( 監修:中川秀敏、翻訳:本橋 英人、長谷川 嘉成、柴田 裕俊)
『クレジットデリバティブ 信用リスクハンドブック』,
ピアソンエデュケーション, 2008/11/25 発売

G. Chacko, A. Sjöman, H. Motohashi, V. Dessain, "Credit Derivatives: A Primer on Credit Risk, Modeling, and Instruments"

の日本語訳です。
基本的な数学の知識をもっていて、これからクレジット・デリバティブについて勉強しようという方向けの本です。
信用リスクについてけっこう詳しい人でも、少し違った目線でのまとめ方や説明の仕方が参考になるかもしれません。
詳細が分かったら、この記事を更新します。

私の役割は「監訳」だと思ってましたが、「監修」になってますね。と思ったら、本の表紙画像では「監訳」になってる・・・
監訳にせよ監修は本来もっと実績のある人がやるものだと思いますが、いろいろな経緯があり引き受けさせていただきました。
私はPart II, Part III を中心に訳文のチェックをしましたが、全体的な取りまとめは原著の著者でもある本橋さんがやってくださいました。

いずれにせよ、翻訳部分についての責任の一端を私が担うことになりますので、誤訳等を見つけられましたら叱咤のうえ、ご連絡いただければと思います。

2008年11月4日火曜日

前記事「チャレンジ!」へのフォロー

前記事「チャレンジ!」の内容に関して、このブログが例の有名巨大掲示板サイトの某スレッドから直リンクされていましたので、そこからこのブログに来た方もいるかもしれません。
結局正しい解答は何なのかについての議論は収斂していないようですね。2通りの答えの数字や、両方とも間違っている、といった話は出ていますが、解き方まで言及したものは少なくとも出てきていません。

試験主催者が解答を発表すれば済む話だと思いますし、私にその義務はないのですが、いちおう私なりの解き方を示しておきます。(表向きは前回の記事をICS内部学生への課題という位置づけにして、その解答について今回の記事で紹介するということです)

出題者の意図は、二項モデルで通貨オプションを評価する場合の、リスク中立確率を計算する公式をきちんと理解しているかを問うことであったと推察されます。

現時点での資産価格が S で、1年後の資産価値が uS と dS (u > d) とする場合、無裁定条件(d < 1+r < u) が成り立っているという仮定のもとで、1年後に資産価値が上昇する(uS になる)リスク中立確率は、
(1+r - d)/(u-d)
で与えられます。

ただし、この資産が配当支払いのある株式であるとか外国通貨である場合は、配当率や外国金利の分を無リスク利子率から引いておかなければなりません。
通貨オプションの場合、R を米ドル金利(年複利)とすると、1年後に円安となる(uS になる)リスク中立確率は、
((1+r)/(1+R) - d)/(u-d)
と修正されます。

今回の問題は、1年後ではなく3ヶ月後ということを考慮すると、
{(1+r*3/12)/(1+0.25*3/12) - d}/(u-d)
として求められることになります。

今回の設定に上の式をあてはめると、
{(1+0.02*3/12)/(1+0.06*3/12) - 105/110}/(116/110 - 105/110)
= 0.356023
と計算されます。
(計算はExcel でやりました。卓上計算機で適当に桁を丸めながらやると、少し
ずれるかもしれません)

リスク中立確率が求まれば、ドルプット max{110 - 3ヵ月後のレート, 0} の価格はリスク中立確率に関するペイオフの期待値を円金利で割り引いて求められることに注意します。
今の設定では、ドルプットのペイオフは円安時には 0 で、円高時には 5 となる
ので、

[ 0 * 0.356 + 5 * (1 - 0.356)] /(1+0.02*3/12) = 3.203

となります。

#会計士試験のテキストなどには、例題を通じてもっとわかりやすく解説されているのではないでしょうか?

もちろん、上のような式を暗記して使えることは大事ですが、個人的には1期間2項モデルの場合は複製戦略を通じた理解が先にありきだと考えています。

要するに、円安時の価値が0、円高時に価値が5となる問題のドルプットと同じ結果をもたらすドルと円の運用ポートフォリオ(要するにヘッジポートフォリオ)を構築し、その初期費用としてオプション価格を求めようというものです。

いま、複製ポートフォリオとして、x ドルとy 円を3ヶ月安全資産で運用すると考えます。
現在のレートが 110円/ドルですから、円ベースの初期コストは 110x + y(円)になります。

3ヵ月後に円安になったとき、運用していたドルを円に戻すとき 116円/ドルになっているので、
その円ベースの価値は
 116x*(1+0.06*3/12) + y*(1+0.02*3/12)・・・(1)
となるはずです。(ドル3ヶ月金利は6%といっているので、その分を考慮する必要があります)
同様に、円高の場合は、円ベースの価値は
 105x*(1+0.06*3/12) + y*(1+0.02*3/12)・・・(2)
となるはずです。

ドルプットを複製するためには、(1)=0, (2)=5 という式が成立する必要があり、
これを x と y の連立方程式だと思って解きます。

そうすると、x = -0.4478, y= 52.4649 と得られます。
つまり、0.4478ドルを借り入れ(3ヵ月後には6%*3/12 分の利息をつけて返さなければならない)、52.4649円分を運用するということです。

その結果、初期コストは、
110x + y = 110*(-0.4478) + 52.4649 = 3.2069
となるということです。
(桁の丸め方の問題でしょうが、これだと 3.21 が答えになってしまいます)