2008年5月21日水曜日

「金融数理の基礎」第4回宿題コメント

第4回分の宿題についてのコメントです。
全体的に、レポートはだいぶ読みやすく(採点しやすく)なっていました。

問1:証明問題ですが、(i)についてはあまり問題なかったのですが、(ii)についてはあえて厳しく見たときには完全な解答と見なせるものはほとんどありませんでした。
証明問題では、何を前提として使っていいのかが重要なのですが、こうした演習問題を解く場合には
テキストに書かれている定義や証明されている性質や定理や命題、およびそのテキストの前提となる基礎数学の知識だけ(場合によっては、どういう事実かをきちんと説明する必要もあると思います)を使うというのが(空気を読んだ場合の)ルールだと思います。

(i)については、テキストにも書かれている「A∩B=空集合のとき、P(A∪B)=P(A)+P(B)」という性質と「A∪B=Ω」をうまく用いればOKです。

(ii)でよく見られたものとしては、
  • 証明すべきことは2つある(一般には不等号が成立することと、排反な場合には等号が成立すること)のに、片方しか言及していないもの。片方が分からなかったのか、答える必要性を感じなかったから書いていなかったからか、判然としなかったです。
  • まだ証明されていない事柄を使ってしまっているもの。このテキストに沿った場合には、証明せずに使えるものは、定義そのものと「A∩B=空集合のとき、P(A∪B)=P(A)+P(B)」というテキストに書いてある性質、あるいは授業で紹介した「A⊂Bのとき、P(A)≦P(B)」という性質くらいなもので、この問題に関しては、他のこと(例えば、一般に P(A∪B)=P(A)+P(B) - P(A∩B) となることなど)はいちいち証明して使うべきであると考えます。
証明の方針としては「数学的帰納法」を用いるものと、一般の確率論のテキストに見られるように「一般のN個の重なりのある和集合を、重なりがないような(つまり、排反になるような)N個の集合に分解して考える」というものでした。

数学的帰納法でもかまわないのですが、厳密にいうと 「N=k の場合に仮定して・・・」というところの書き方が多くの人が不十分です。「k 個の集合の選び方によらず、k個の和集合については問題の不等号が成立する」という書き方をしないといけません。単に A_1, ・・・ A_k の場合に成り立つと仮定しても、それは特別な k 個の集合を選択した場合にだけ成り立つと仮定しているにすぎません。少なくとも、集合の選び方によらないことを断っておく文言が必要です。
(集合の演算、∪や∩は普通の演算の和と積に対応するので、交換法則や結合法則は当然成り立つのですが、数学科の集合論の授業では最初にそういう自明に思える性質を証明するということを習います)

後者の方針は集合論の性質をうまく利用する意味で非常によいのですが、多くの確率論のテキストでは、最初から有限加法性あるいは完全加法性と呼ばれる性質を確率測度の備える条件として定義に含めています。有限加法性とは(ii)の後半の排反な場合には等号が成立するという性質そのもので、完全加法性は「N=∞」としての等号成立です。
しかし、このテキストでは、別の定義を与えて、それを命題として証明せよ、という問題ですから、ほぼ自明とはいえ、その性質を最初から当然として使うことは適切ではありません。
(また、細かく言うと、帰納法の方針のところでコメントしたことに通ずるのですが、排反になるようなN個の集合の分解の仕方によらないことにも触れておくべきです)

要するに、一般の n について A_1, A_2, ・・・. A_n が排反な集合であるとき
P(A_1∪A_2∪・・・∪A_n)=P(A_1)+P(A_2)+・・・+P(A_n)
が成り立つということもいちいち証明して用いることが必要です。
(ほとんど n=2 の場合と同じように示せますが、それはそれで一般の場合にも成り立つことを説明しておくべきです。そうでなければ問題として出題されている意味がありません)


問2:計算ミスが多少あった以外はだいたいできていました。ただ確率分布を表現する方法が適切でない人が少しいました。S_3 の分布を与えるという場合は、S_3 の取り得る値と確率が対応されているような書き方 P(S_3 = △) =□のような表し方か、S_3の値と確率の対応表として表すことが必要です。

(ii)の平均成長率が 25% ではなく 125%(あるいはそれに相当する小数・分数)と答えた人がいました。悪くはないと思いますが、25%のように答える方が自然と思います。その上で、この25%という数字は何なのかに言及しているかどうかというところに私はポイントを置きました。何人かの人はコメントをしてくれていました。

問3:条件付き期待値は確率変数であるので、答え方としては E_1[Y_3](H) = とか E_2[Z_3](TH)=
とか、情報を与える期待値の添え字の時点までのコイントスの結果を具体的に与えて、確率変数の取る値を計算することになるので、けっこう答えを書くのが面倒だったと思います。
多くの人が(計算ミスが多少あったにせよ)きちんと解答してくれていました。

なお、確率は HもTも1/2 につもりでいましたが、受講生の方からそれを確認するメールをいただきました。その意味では確率についても問題の中で明示しておくべきだったと思います。すみませんでした。

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