第3回宿題の略解をイントラネットにアップしておきました。
全体について:
何ページにもわたって解答が書かれていたり、答えがどこにまとめてあるのか分かりにくかったりするレポートが多く、中身以前のチェックがけっこう大変でした。
レポートは、採点者が読みやすいように書くことも意識してほしいと思います。問題を解いたときの思考過程を全てレポートに書く必要はありませんし、思考の自然な流れのままに書く必要もありません。特に、解答そのものや説明の核になる部分は、できるだけまとめてわかりやすく書いてほしいと思います。
皆さんも仕事に関係するドキュメントを目にするときに、結論や議論のポイントがすぐに把握できないドキュメントを読むのはつらいと思いますが・・・
問1:各時点・各状態での株式保有単位についてはほとんどの人がきちんと議論できて答えも正しく求めていました。オプションを売る立場のヘッジと混同していて、符号の勘違いをしている人が若干いましたが、
株式保有単位が決まってしまえば、マネーマーケットで取引すべき額は自明だと考えたのか、マネーマーケットでの取引については文章だけで済ましている人が何名かいました。おそらく自身では計算できる(できた)のでしょうし、解答が冗長いなってしまうと考えて省略したのかもしれまえん。ただ、この問題では確認の意味で、具体的な数字を与えたうえでの問題なので、いつ・どの状態のときに、どれだけの額を具体的にマネーマーケットで運用or調達することになるかも明示してほしいところです(次に述べるような勘違いの可能性を確認できないので)。
また、マネーマーケットでの運用(調達)額を明示している場合でも、オプションの価値もマネーマーケットでの運用分に含めてしまっていて、実際にマネーマーケットで取引すべき額とは異なる数字を答えている人もいました。
他には、特定の状態のときのみ具体的な数字を出して議論している人がいましたが、後述するような一般論を考えていないのであれば、この問題に関しては不十分という気がします。
数値を全てのケースについて具体的に書くのが大変と感じたのであれば、一般論を展開して戦略を表す数式を具体的に与えるという答え方がもっともスマートな方法だと思います。各時点・各状態に依存した株の保有単位とマネーマーケットでの運用(調達)額は、単に連立方程式の解ですから、数式で明快に表せます。先に、一般解を求めてから数値を当てはめてみるという解答が、個人的にはベストと思っています。
問2:(1)題意を勘違いした人や、y が単なる和を表す変数なのに平均をとったものと勘違いして、いる人が若干いました。正しく再帰的アルゴリズムの関係式を出していた人は半数くらいでした。
(2)結果を見る限りは、ほとんどの人が正しい解答を得ていました。ただし、(1)で答えた再帰的アルゴリズムではなく、コイントス3回の結果8通りの場合に従って答えを導いている人が多かったです。まあ、この問題では(1)のアルゴリズムを用いるメリットはあまりないので、手法は問わず、答えがきちんと出せたかどうかを評価しました。
(3)最後まで整理した形で解答した人は意外と少なかったです(テキスト自体が整理していない形を出しているので問題はないのですが・・・)。(1)と同様に、題意を勘違いした人や、y の意味を取り違えている人が若干いました。
問3:ポイントは、あのような1期間3項モデルの設定では、「無裁定の条件だけからは複製戦略は見つからない or リスク中立確率が一つに決まらない」というところに気づくことです。
もし、特に意図的に他の条件や仮定を加えずに、複製戦略が求められたり、リスク中立確率が1つに決まっているとすれば、無裁定以外の情報を自分で補っていることになります。
「複製戦略が一意に求まらない」と表現していた人がいました。間違いではありませんが、「一意に求まらない」というのは「複製戦略が複数ある」という意味で使うことが一般的なので、「存在しない」ことを表す表現としては適当とは思えません。
完備のときと同じ議論ができないことに気づいた後の議論の方向としては次のようなものが考えられます。
- 別の制約条件(効用関数とか分散についての制約)やモデルで与えている株以外の危険資産の存在を仮定するなどして、複製戦略や唯一のリスク中立確率を決めにいこうというアイデア
- リスク中立確率が存在することは言えるので、妥当なリスク中立確率の範囲(集合)を見つけて、妥当な価格の範囲を議論しようというアイデア
- 売り手および買い手のどちらかに裁定機会が存在しないようにするための条件を議論して、妥当な価格の範囲を議論しようというアイデア
2つ目と3つ目の考え方は同値で、最終的に同じ fair price の範囲が与えられます。
今回の権利行使価格5のコール・オプションの妥当な価格の範囲は 0.6<V(0)<1.2 になります。
0.6 以下だと買い手有利、 1.2以上だと売り手有利になります。
きちんとこの範囲に言及している人も少しだけいました。厳密ではなくとも 0.6 や 1.2 という数字に気づいていた人もいました。
問4:(1)(2)(3)(5)は、正解している人が多かったです。リスク中立確率の計算で p と q の算出式を逆にしてしまった人がいましたが・・・
(4)は最小の場合はほとんど正解でしたが、最大の方は間違えてしまっている人が少しいました。
(4)についてはコンピュータで最適化を試みた人、オプション価格と原資産価格や上昇率などの理論的関係に注目して演繹的に解答した人、その両方を行っている人の3タイプに分かれていました。
計算機に頼った人で最適化を総当りでやらなかった場合には、アルゴリズムによっては初期値に依存してしまって最大ではなく極大に収束してしまう可能性もあります。
実際にいろんな誕生日のパターンで問題を解いて、MとDの2軸に対するオプション価格を3次元グラフに描いてくれた人がいました。描かせてみると分かるのですが、山が2つ現れるようなグラフになってしまいますので、局所最適のアルゴリズムだと最大がある方の山に行ってくれない可能性もあると思います。
きちんと理論的に上昇率とオプション価格の関係を捉えようとしていた人の中にも、最大値をとるのは単調増加しているところの最後の時点と決めつけてしまっている人が少しいました。単調減少している部分の出発点も最大値を取り得ます。
あと(3)は単に差を計算せよ、という以上に実は意味があります。コールとプットの価格は人によって違っていても、あることが共通な人は価格差は同じになります。そのことに気づいてコメントしてくれた方もいました。価格差が同じになる条件は何か、気づいていない人はもう少し考えてみてください。
0 件のコメント:
コメントを投稿