2008年5月30日金曜日

6/4(水)「フィナンシャル・リスク・マネジメント」第9回:信用リスク(1)

第9回目は、信用リスクの初回と言うことで、信用リスク・モデルについての概説をしたいと思います。
内容に関しては特に予習するポイントはありませんが、2つ目のレポート課題に向けての知識確認ということでB/S, P/L の基礎知識と財務指標の定義などについての小テストをしようと思っています。

予定としては、

  • 中間試験の講評
  • 信用リスクのとらえ方
  • 信用リスク・モデルの一つの分類
  • 会計知識の小テスト
などです。
時間があれば、判別分析についても少し説明したいと思います。

「金融数理の基礎」第5回宿題コメント

第5回分の宿題についてのコメントです。

問1:テキストでいうところの「条件付Jensen不等式」とマルチンゲールの条件を組み合わせるだけです。少し回りくどい説明をしている人がいました。
ただし、厳密にいうと、φ(M_n) が適合過程であることにも言及する必要があります。ほぼ自明なことですが、そのことについて触れているかどうかで、その人がきちんと定義を確認できているかどうかが判断できます。その意味では誰も適合性について触れていませんでした。

問2:これも、条件付期待値の性質を繰り返し適用して式変形していき、とどめとして M_n がマルチンゲールであるという性質を使うことになりますが、説明不足と感じられる答案が多くありました。また、問1と同じで、I_n自体が適合過程であることにも言及する必要があります。自明と感じられるかもしれませんが、2行くらいで簡単な説明がほしいと思います。
あと、この問題のM_n が対称ランダムウォークとして定義されたものに限定していると勘違いしていた人もいますが、そうではありません。

問3:これについては出題の仕方があまり適切ではなかったと反省するところではあります。それは出題の段階で感じていたことでしたが、他にうまい設定を考え付かなかったので、結局、無裁定二項モデルという特殊な例に対して、ファイナンスとはあまり関係ない数学的な技術を問う問題のまま出題しました。

そのため、無リスク金利の扱いで無用な混乱をさせてしまったようです。私のタイプミスか何かと思ったのか、無リスク金利で割引した株価過程に対して議論していた人が少しいました。

また無リスク金利については他の問題からコピペしたのが残っているだけで、この問題に関しては不要な情報と思ってしまった人もいたようで、 0 < d < 1 +1/4 < u という無裁定と同値な制約条件がそもそも前提として存在することを考慮しないで答えていた人がいました。
私としては、その部分を気づかせるために問題文で「無裁定・・・」をゴシックにしていたのですが。

答え方として要求していませんでしたが、本当は必要十分条件をud平面に図示してもらうという大学入試にありがちな問題を念頭においていたので、その際には単なる等号成立条件から成り立つ以外に、何らかの制約条件が存在して図示されるのはある部分ということに思い至るかな、と考えていました。

まあ、私の出題の仕方も適切ではなかったですし、ファイナンス的な意味があるわけではないので、この問題に関して特にこだわる必要はありません。
強いて言えば、私の出題パターンとして、細かい条件を直接明示せずに問題文から読み取ってもらうような傾向がある、と思っていただければよいと思います。

2008年5月28日水曜日

「フィナンシャル・リスク・マネジメント」中間試験コメント(速報2)

「フィナンシャル・リスク・マネジメント」の中間試験は17名が受験しました。

全体の採点を終えました。
(見直しは後でするので、最終結果は異なるかもしれません。特に
記述はもう一度検討したいと思います)

平均点は
 計算問題が30.5点、最高点は50点(1名)
 記述問題が38.6点、最高点は43点(6名)
でした。


計算問題の略解はイントラネットにアップしました。

全体講評は改めてしますが、目立った点だけメモします。
問1は全部できている人も多かった一方で、ふるわない人も少なくなく出来は二極化してました。
単純に正解1つにつき3点です。

問2は、手つかずの人がほとんどでした。問2は練習問題では扱わないタイプの問題でしたが、分布関数の逆関数を計算するだけでできます。そこに気づいてほしいところでした。
答えがまちがっていても、逆関数の議論に思い至っている人は3点をベースに部分点を挙げました。

問3は、全体的によくできていました。
(i) は金額ベースで答えるので、C_A, C_B をかける必要があります。
(ii) は収益率の標準偏差として答える必要があることに注意です。
(iii)では、本当はρ=1 では等しく、ρ<1 では単純和の方が大きいと答えてほしかったのですが、少しおまけしてあります。議論が不完全な人は少し減点しています。
また、(iii)について VaR の劣加法性が成り立たないと決めつけてしまっている人がいました。VaR の劣加法性は一般的に成り立つとは限らないのであって、正規分布のときなど成り立つ場合もあります。

問4は、完璧にできている人はあまりいませんでした。全部の数字があっていないと本当は意味がありませんが、甘めに部分点(1箇所ミスで4点、2箇所ミスで2点、3箇所以上ミスは0点)をあげました。

問5については、(A)4名 (B)9名 (C)4名 という分布でした。

コメントは別途したいと思いますが、現段階での採点方針として

(知識)こちらで想定していた内容(それぞれについて2つor3つののポイントを用意していました)に比べて不足している場合、1件だけだと5点減点。2件ないと10点減点としています。また、不適当な用語の使い方や正解と見なせないようなことを記述してある場合は適宜減点をしています。

(見解)主張が明確でないもの(つまり、あなたの主張はこういうことですか?と問い正したくなる文章)については、5点減点。あとは、前提となることや論理的なつながりのわかりにくさに応じて最大5点の減点をしています。(ということで見解部分については全員20点以上となっています)

細かい誤字脱字は見逃してあります。あと「である調」と「ですます調」の混在や「ですます調」だけでの解答などがありましたが、通常、試験の記述問題の答えやレポート・論文では「ですます調」は使わない方が賢明だと思います。

フィナンシャル・リスク・マネジメントの授業計画の一部変更について

信用リスクに関して5回分話す予定ですが、当初の予定(講義要綱および3月時点のシラバス記事のもの)を以下のように少し変更したいと思います。

【授業計画】の変更箇所:

9. (6/4) 信用リスク :信用リスク計量化の概説
10. (6/11) 信用リスク:デフォルト判別モデルなどの統計モデル(演習含む)
11. (6/18) 信用リスク:構造型アプローチによるモデルの概観
12. (6/25) 信用リスク:誘導型アプローチによるモデルの概観とクレジット・デリバティブの評価

2回目のレポートは6/11にアナウンスします。
また、この回はノートPCがあると良いと思います。

6/3(火)「金融数理の基礎」第7回:二項モデルの確率論的整理(4)

第7回目では、メインテキストの2.5節の残りと1,2章の練習問題をいくつか扱います。

予習時のポイント(授業において重点的に説明するところにもなります)として、以下の項目を挙げておきます。

  • 例題2.5.6 のマルコフ過程に対する backward な再帰式の導出法
  • 第5回配布プリントの問2(例題2.5.6の類題として説明したいと思います)
  • 1章の練習問題9 および 2章の練習問題9(時点と状態によって、上昇率・下落率・無リスク金利が変化するモデル)
  • 2章の練習問題12(Chooser option+Put-Call parity)
また第6回分の宿題レポートは、授業時に提出するか前もって共同研究室に提出しておいてください。

2008年5月27日火曜日

「金融数理の基礎」第6回フォロー

配布資料はイントラネットにアップしておきました。

5月27日(火)提出の「金融数理の基礎」第5回分のレポートの提出が確認できているのは、以下の17名です。

提出したはずなのに自分の id が載っていないという人は至急連絡ください。

IK08F002, IM05F023, IM07F029, IM08F007, IM08F010, IM08F013,
IM08F017, IM08F020, IM08F023, IM08F024, IM08F026, IM08F027,
IM08F028, IM08F030, IM08F037, IM08F038, IM08F039

いつもは、金曜日にはコメントや返却ができるようにチェックをしているのですが、今週は他の用事もあり、今回分についてはコメントや返却が遅れる見込みです。

また、今回の宿題は配布した分のうち問題1だけとします。
問題2については、次回の授業の中で扱います。レポートに解答してあっても特にチェックしないのであしからず。

M1ゼミ(5月分)

私のところのM1ゼミは4名で、前期の間に

S. E. Shreve, "Stochastic Calculus for Finance II: Continuous-Time Models"
(長山いづみ他訳「ファイナンスのための確率解析II-連続時間モデル」)

の3章から5章を読むことにしました。
1回90分で2名の方に発表してもらうという形です。

かなりのハイペースにしないと読めないので、細かいところを一つ一つ完全に理解するというよりは、各セクションでの重要な定義および結果と、その背景にはどういう数学的あるいはファイナンス的な概念があるのかということを確認していくことを主たる目的にしていくと思います。
とはいえ、短時間でこれだけ速く読み進めていくのは私自身初めての試みでもあるので、どういうコメントをしていくかは試行錯誤中です。

5月分のゼミのサマリーです。

12日(月)第1回:こんな感じで進めていくと良いのでは?という意味で私自身が3.1節~3.3節のブラウン運動の定義のところまでを30分程度で話しました。その後は1章、2章全体に関係する内容をごく簡単に説明しました。

19日(月)第2回:3.3節の続きから3.4節を2名の方に発表してもらいました。
[W,W](t) = t とならない経路全体は確率ゼロととらえられることなど、2次変分に関する内容について少しフォローしました。

26日(月)第3回:3.5節から3.7節を2名の方に発表してもらいました。
Markov 性の定義が一般には厄介なこと、stopping time の概念、証明中の dominated convergence theorem の使われ方、strong Markov property など少しフォローしました。

5/15(木)、22日(木)「金融市場の計量分析」第6回、第7回

第6回と第7回をまとめて。

第6回では、

P. Schonbucher,
"Modelling Dynamic Portfolio Credit Risk",
Working paper
(2003)

の Proposition 1 と Proposition 5(およびその前提となる 4(iii))の証明をやりました。

ただし、Prop.1の方はcadlag なプロセスのジャンプの過程の predictability(実際には progressively meaurability) がの成立がきちんと言えなかったので、完全に納得できたというところまではいきませんでした。

第7回では、

S. R. Das, P. Hanouna,
"Implied Recovery",
Working paper(2006)

R. M. Gaspar, I. Slinko,
"On Recovery and Intensity's Correlation - A New Class of Credit Risk Models",
Working paper
(2007)

を紹介しました。特に前半の Merton モデルによる recovery rate と intensity の関係の特徴づけの話について紹介しました。

これで、第7回をもって私の担当回は終了しました。


2008年5月23日金曜日

「金融数理の基礎」第4回宿題レポート【返却】

「金融数理の基礎」第4回宿題レポートを返却します。

共同研究室からメールで連絡があると思いますので、8階の共同研究室の
ドアのところ個人フォルダから受け取ってください。

採点内容やコメントについて質問・異議等ありましたら、直接中川まで。

2008年5月22日木曜日

5/27(火)「金融数理の基礎」第6回:二項モデルの確率論的整理(3)

第6回目では、メインテキストの2.4節の残り~2.5節の内容を扱います。

予習時のポイント(授業において重点的に説明するところにもなります)として、以下の項目を挙げておきます。

  • 41ページの最後から43ページの中段くらいにかけての説明(定理2.4.8は少し言及しますが、板書はしません)
  • マルコフ過程の定義および47ページ真ん中あたりの説明
  • 補題2.5.3 の内容
  • 例題2.5.4→例題2.5.6(非マルコフを多次元マルコフと見なす考え方)
また最後に時間が足りなくなるかもしれませんが、第7回目は問題演習にしていて多少バッファーになると思うので、あわてすぎないようにします。

また第5回分の宿題レポートは、授業時に提出するか前もって共同研究室に提出しておいてください。(今度から共同研究室の提出状況も確認します)

5/28(水)「フィナンシャル・リスク・マネジメント」第8回:中間試験(追記)

第8回目は、中間試験です。

日時と場所:5月28日(水) 18:40~19:40(正味60分) 第3講義室
※遅刻は試験開始30分後まで認めます(つまり19:10まで)
※追試験の予定はありません(ただし、
正当な理由があり、なおかつ
試験開始1時間前までに当日の受験が不可能であることを中川に連絡してきた場合のみ、追試験の可能性を検討します。ただし、仮に追試験をした場合の成績評価は「学生便覧・講義要綱」の一橋大学大学院国際企業戦略研究科細則の第18条(追試験)3に倣って、得点の8割とします)

試験範囲と出題形式
  • 第2回の授業から第7回の授業で扱った内容(プレゼン資料・配布資料)。プレゼン資料の内容や数式を細かく記憶してくる必要はないが、資料の中で強調されたり繰り返し使われている用語の意味を確認したり、授業でどういう話題を扱ったかを自分なりに整理したりしておくこと
  • 計算問題を50点分、記述問題を50点分出題する
  • 計算問題は、配布資料の演習問題の類題を出題する。特に VaR と ES の計算方法、バックテストの考え方について復習しておくこと
  • 記述問題は、授業で触れた内容に関連したいくつかのテーマの中から選択して解答してもらう予定。知識も多少問うが、それよりも問いに対して論理的な説明ができているかどうかを重視する
  • 参考書やノートなどの参照は不可とする。また卓上計算機などの使用も不可とする

2008年5月21日水曜日

「フィナンシャル・リスク・マネジメント」第7回フォロー

授業関係のファイルをイントラネットにアップしておきました。

第6回の課題を提出してことが確認できているのは以下の13名です。
提出したはずなのに自分の id が載っていないという人は至急連絡ください。

IM05F023, IM07F016, IM07F023, IM07F029, IM07F037, IM07F044,
IM08F007, IM08F023, IM08F024, IM08F026, IM08F037, IM08F039,
IK08F001

皆さんがどんな戦略を提案したかをまとめて一覧にしたものを紹介することにしたいと思います。

皆さんのレポートを見ていて、もう少し出題の仕方に注意を払えばよかったと反省しています。
リスクが高い低いの判断は、想定しているリターンや戦略との関係で見ないといけないので、ただリスクだけを小さくするということは本来意味がないことですね。
たぶん、その辺をあえて割り切って解答しされた方も多かったことでしょう。

問題の基準となるポートフォリオも、全体的に金利が上がり、なおかつ相対的に短期の方が上がる「ベア・フラット(?と言えばよいのでしょうか)」の方向に自信があるとすれば、それなりに大きなリスクをとる意味があるのかもしれません。

ということで、どういう目的を設定するかをまず考え、そのうえで金利リスクをどのようにコントロールするかを考えるように促すべきだったと思います。

また、分散共分散法による 99%VaR を最小化するということを直接の目的としていた人が何人かいましたが、どちらかというと上位の主成分に対する係数を0に近づけるという目的が先にあって、結果的に VaR が小さく(見えるように)なるという方が自然な見方のような気がします。
それにこのモデルではVaRをいくらでも0に近くすることはできますが、それはリスクをとらない代わりに少なくとも金利リスクに関しては超過リターンも見込まないということの裏返しになっていることに注意。

あと、「現在のポートフォリオを劇的に変えずに」の部分の解釈は何パターンかありました。多くの人が1つか2つの年限に対応するGPSだけを変えて(要するに、GPSを変化させようとする年限と同じ残存年の割引債のトレードなどだけで)という解釈をしていました。
今回の問題については、そういう考え方でも良いのですが、現実的にはポートフォリオの総額の枠内で組み替えることになると、ただロングしたりショートしただけでは不十分で、買ったらその分の資金を別の資産を売って充当するとか(反対も然り)を考えることが必要かと思いますので、最低でも2つのGPSを変化させていくことが現実かもしれません(先物を使うことを想定すれば、単独でも良いと思いますが)。

そういうことも念頭においたのか、全体(あるいはlong, shortそれぞれも)のGPS総和を保持することを制約にしていた人もいました。ただし、GPS総和を維持するように取引することで、必ずしも売買金額をネットで0にできるというわけでもないことには注意が必要だと思います。


以下、授業に関するコメントです。

授業で紹介した copula に関する文献はこちらから。
(Clayton copula の乱数生成のところには注意)

また、多期間リスク尺度の難しい話を少しでも知りたいという方はこちらの最初の論文を。

「金融数理の基礎」第4回宿題コメント

第4回分の宿題についてのコメントです。
全体的に、レポートはだいぶ読みやすく(採点しやすく)なっていました。

問1:証明問題ですが、(i)についてはあまり問題なかったのですが、(ii)についてはあえて厳しく見たときには完全な解答と見なせるものはほとんどありませんでした。
証明問題では、何を前提として使っていいのかが重要なのですが、こうした演習問題を解く場合には
テキストに書かれている定義や証明されている性質や定理や命題、およびそのテキストの前提となる基礎数学の知識だけ(場合によっては、どういう事実かをきちんと説明する必要もあると思います)を使うというのが(空気を読んだ場合の)ルールだと思います。

(i)については、テキストにも書かれている「A∩B=空集合のとき、P(A∪B)=P(A)+P(B)」という性質と「A∪B=Ω」をうまく用いればOKです。

(ii)でよく見られたものとしては、
  • 証明すべきことは2つある(一般には不等号が成立することと、排反な場合には等号が成立すること)のに、片方しか言及していないもの。片方が分からなかったのか、答える必要性を感じなかったから書いていなかったからか、判然としなかったです。
  • まだ証明されていない事柄を使ってしまっているもの。このテキストに沿った場合には、証明せずに使えるものは、定義そのものと「A∩B=空集合のとき、P(A∪B)=P(A)+P(B)」というテキストに書いてある性質、あるいは授業で紹介した「A⊂Bのとき、P(A)≦P(B)」という性質くらいなもので、この問題に関しては、他のこと(例えば、一般に P(A∪B)=P(A)+P(B) - P(A∩B) となることなど)はいちいち証明して使うべきであると考えます。
証明の方針としては「数学的帰納法」を用いるものと、一般の確率論のテキストに見られるように「一般のN個の重なりのある和集合を、重なりがないような(つまり、排反になるような)N個の集合に分解して考える」というものでした。

数学的帰納法でもかまわないのですが、厳密にいうと 「N=k の場合に仮定して・・・」というところの書き方が多くの人が不十分です。「k 個の集合の選び方によらず、k個の和集合については問題の不等号が成立する」という書き方をしないといけません。単に A_1, ・・・ A_k の場合に成り立つと仮定しても、それは特別な k 個の集合を選択した場合にだけ成り立つと仮定しているにすぎません。少なくとも、集合の選び方によらないことを断っておく文言が必要です。
(集合の演算、∪や∩は普通の演算の和と積に対応するので、交換法則や結合法則は当然成り立つのですが、数学科の集合論の授業では最初にそういう自明に思える性質を証明するということを習います)

後者の方針は集合論の性質をうまく利用する意味で非常によいのですが、多くの確率論のテキストでは、最初から有限加法性あるいは完全加法性と呼ばれる性質を確率測度の備える条件として定義に含めています。有限加法性とは(ii)の後半の排反な場合には等号が成立するという性質そのもので、完全加法性は「N=∞」としての等号成立です。
しかし、このテキストでは、別の定義を与えて、それを命題として証明せよ、という問題ですから、ほぼ自明とはいえ、その性質を最初から当然として使うことは適切ではありません。
(また、細かく言うと、帰納法の方針のところでコメントしたことに通ずるのですが、排反になるようなN個の集合の分解の仕方によらないことにも触れておくべきです)

要するに、一般の n について A_1, A_2, ・・・. A_n が排反な集合であるとき
P(A_1∪A_2∪・・・∪A_n)=P(A_1)+P(A_2)+・・・+P(A_n)
が成り立つということもいちいち証明して用いることが必要です。
(ほとんど n=2 の場合と同じように示せますが、それはそれで一般の場合にも成り立つことを説明しておくべきです。そうでなければ問題として出題されている意味がありません)


問2:計算ミスが多少あった以外はだいたいできていました。ただ確率分布を表現する方法が適切でない人が少しいました。S_3 の分布を与えるという場合は、S_3 の取り得る値と確率が対応されているような書き方 P(S_3 = △) =□のような表し方か、S_3の値と確率の対応表として表すことが必要です。

(ii)の平均成長率が 25% ではなく 125%(あるいはそれに相当する小数・分数)と答えた人がいました。悪くはないと思いますが、25%のように答える方が自然と思います。その上で、この25%という数字は何なのかに言及しているかどうかというところに私はポイントを置きました。何人かの人はコメントをしてくれていました。

問3:条件付き期待値は確率変数であるので、答え方としては E_1[Y_3](H) = とか E_2[Z_3](TH)=
とか、情報を与える期待値の添え字の時点までのコイントスの結果を具体的に与えて、確率変数の取る値を計算することになるので、けっこう答えを書くのが面倒だったと思います。
多くの人が(計算ミスが多少あったにせよ)きちんと解答してくれていました。

なお、確率は HもTも1/2 につもりでいましたが、受講生の方からそれを確認するメールをいただきました。その意味では確率についても問題の中で明示しておくべきだったと思います。すみませんでした。

「金融数理の基礎」第5回フォロー

配布資料はイントラネットにアップしておきました。

5月20日(火)提出分の「金融数理の基礎」第4回分のレポートの提出が確認できているのは、以下の20名です。

提出したはずなのに自分の id が載っていないという人は至急連絡ください。

IK08F002, IM05F023, IM07F028, IM07F029, IM07F037, IM07F044,
IM08F007, IM08F010, IM08F013, IM08F017, IM08F020, IM08F023,
IM08F024, IM08F026, IM08F027, IM08F028, IM08F030, IM08F037,
IM08F038, IM08F039

ちなみに、私はレポートの回収をした後、まず名簿順にレポートをソートするのですが、
一般に人間の手で sorting を行う場合に、効率のよいとされる sorting の
アルゴリズムをどなたかご存知でしょうか?
(まあ、成績処理をするだけなら順不同で採点して、学籍番号と点数を採点順に
記録していって、あとでExcel シート上とかでソートするのが一番賢いのでしょうが・・・)

あと、中間試験は、
 日時と場所:6月17日(火) 8:10~9:10(正味60分) 第3講義室
 試験範囲:テキストの第1章と第2章
の予定です。
※詳細は次回の授業のときにでもアナウンスします。


授業内容に関するフォローコメントですが、

条件付き期待値の性質の"独立性"についてです。これは一般に「独立性」の仮定があれば言える結果ですが、
テキストの条件では、「X という確率変数が最初のn回までのコイントスの結果とは関係せず、(n+1)回目以降の結果だけから決まるという」場合だけを条件にして、付録の証明もそのような場合についての証明になっています。
これは、「確率変数 X と F_n(時点 n までに得られるコイントスの結果から構成できるσ加法族)が独立」となる最も単純な例であり、直感的に独立という感じが成り立つのは分かると思いますが、
実際には「確率変数 X とσ加法族 F_nが独立」という条件は、直感に反するような場合もあります。

特殊な例ですが、
n=0,1,2,・・・に対して、Y_n(H) = 1, Y_n(T) = -1 とし、P(H)=P(T)=1/2 という設定で、
n=1,2,・・・に対して、X_n = Y_0×Y_1×・・・×Y_n
として X_n という確率過程を定義し、F_n :=σ(Y_1, ・・・, Y_n) とすると、
X_{n+1} は Y_1~Y_n の情報を全て使って定義されているにも関わらず、
F_n と独立になっています。
(そもそも X_1, X_2, ・・・, X_n そのものが独立な確率変数の列になっています。証明は考えてみてください)

あと、マルチンゲールの語源についての一つの言及はここの最後に書いてあります。
リアルなマルチンゲールの図入りの説明はこちら

Musiela-Rutkowski の本の中国版はこちら

確率のことは中国語では「概率」とか「機率」と書くようです。漢字から受ける印象だと中国語の漢字の方がふさわしい気もします。
あとどうでも良いですが、馬爾可夫鏈とか布朗運動とかが何のことか分かりますか?

2008年5月19日月曜日

「フィナンシャル・リスク・マネジメント」第6回フォロー

授業関係のファイルをイントラネットにアップしておきました。
中間試験の情報も配布資料にあります。

演習問題の問題2(iii)を解いた人は、次回の授業時にレポートを提出してください。

また、第5回の課題(95%-VaR, 95%-ES)のファイルを受領した人は以下の17名です。
提出したはずなのに自分の id が載っていないという人は至急連絡ください。

IM05F023, IM07F001, IM07F016, IM07F023, IM07F029, IM07F031,
IM07F037, IM07F044, IM08F007, IM08F017, IM08F020, IM08F023,
IM08F024, IM08F026, IM08F027, IM08F039, IK08F001

授業の最初のほうで、2007年1月から直近までのLIBOR-SWAPRATEの変動をお見せしました。
昨年の10月あたりから今年の4月にかけてLIBORが、2年物スワップレートなどと比べて、だいぶ上がっていた点についてコメントしましたが、360日ベースといった換算日の不整合の可能性や、
サブプライム問題以降、TIBOR とは異なりLIBORはジャパン・プレミアムと考えられる(注:ジャパン・プレミアムという部分については私の聞き違いあるいは思い込みだったかもしれません)スプレッドがかなり大きかったというようなご指摘をいただきました。
私自身、TIBORと少し比べましたが、去年8月くらいから拡大して、2007/10/1では、6M で LIBOR の方が 20bp くらい高くなっていますね。
ただ、LIBORが上昇すれば自然とスワップレートも上昇するような気もするのですが、2年物はどちらかというと下がっていたりしています。
このあたりのことをご存知の方がいたらぜひ教えてください。

受講生の方から追加でコメントをいただきました。私は単に円金利の動きを見ていただけですが、実際には、欧米の金利や金融市場のドタバタの余波を受けた結果と考えられるという丁寧な解説でした。

以下、私でいただいた解説を要約したものです。ただし、これが唯一絶対の見方であると言いたいわけではないことをお断りしておきます。
  • LIBOR上昇は、ヘッジファンドに資金を貸していた欧米の投資銀行によるドルやポンド、ユーロの資金調達圧力上昇の影響につられて高止まりした一方で、SWAPレートの低下は米利下げの影響や『質・流動性への逃避』的な行動からグローバルに国債へ資金シフトが起きたために、金利が低下したことが影響したためと考えられる。

  • ただし、邦銀の資金調達ニーズは欧米金融機関に比べ高くなかったため、LIBORと国内金融機関の貸出金利であるTIBORの乖離が起きた。このことは外銀に比べむしろ邦銀の信用力の方が高くなっていたことを示唆する(ジャパン・プレミアムということではない)。

講義資料作成に用いた参考文献として授業の最後で紹介した本は以下の通りです。

太田 智之「債券投資とファイナンス理論
デービッド・G. ルーエンバーガー「金融工学入門

2008年5月16日金曜日

5/21(水)「フィナンシャル・リスク・マネジメント」第7回:市場リスク(4)

第7回目は、市場リスクの最終回ということになりますが、市場リスクというよりは、リスク尺度自体に再度目を向けて、最近のアカデミックな動向などを紹介したいと思います。

準テキストでは6章の内容のいくつかに相当しますが、私のほうは別のソースを使って資料を作成します。

予定としては、

  • coherence および law invariance, comonotonicity
  • copula
  • risk capital allocation
  • multi-period risk
などの話題をとりあげたいと思います。
(第7回の内容は、中間試験の範囲には含めませんが、期末試験の範囲にはなります)

「金融データ・・・」の中間試験が気になる人も多いでしょうし、トピックスの紹介が中心なので少し早めに切り上げて、質問の時間などをとれるようにしたいと思います。

2008年5月14日水曜日

5/20(火)「金融数理の基礎」第5回:二項モデルの確率論的整理(2)

第5回目では、メインテキストの2.3節の続き~2.4節の内容を扱います。

予習時のポイント(授業において重点的に説明するところにもなります)として、以下の項目を挙げておきます。

  • 条件付き期待値の重要な性質(例題の説明は省略します)
  • マルチンゲールの定義と基本的な性質
  • 2項モデルにおける割引株価過程および割引富過程がマルチンゲールになること
  • リスク中立価値評価式のマルチンゲールによる特徴付け
後半の部分は証明の中身も少し見ていきたいと思います。
その際に、条件付き期待値の重要な性質がどのように使われていたかを見ていきます。

あとは増大情報系(フィルトレーション)を表すための記号も最初に導入しておこうと思います。

2008年5月13日火曜日

「金融数理の基礎」第4回フォロー

今回の宿題と前回の宿題(問1と問4)に解答に関するExcelファイルを略解をイントラネットにアップしておきました。

今回の宿題は次回の授業(5/21)のときに提出してください。

授業は抽象的な話に終始してしまい、なかなか理解が追いつけなかった人もいるかと思います。
せっかく確率論の基礎的な部分に触れる機会でしたので、(かなり short cut でしたが)一般的な世界までご案内しました。

また、今回の範囲については、テキストを読んでいただければおおよそ理解できる内容ですし、テキストを参考にすれば宿題の計算問題も(面倒でしょうが)どう計算すればよいか分からないということ無いと思います。

条件付き期待値の定義について、あえて“ほぼ正式な”定義を説明した理由を繰り返すと、
  • 有限状態の場合には、テキストの定義のように、条件付き期待値を直観的な理解にも沿うように、具体的に書き表すことができるが、一般には明示的な表現ができない
  • しかしながら、条件付き期待値という概念は確率解析、ひいては数理ファイナンス理論では欠かせないものなので、それがどのように導入されるかという雰囲気をつかんでほしかった
ということになります。「ほぼ正式な」と書いた意味は、授業で触れたように「条件付き期待値が存在する」ことをきちんと保証しないということもありますが、もう一つ授業できちんと触れなかった問題として、「存在するとしてそれが一意であるか?」ということも曖昧にしたので「ほぼ正式な」と断っておきました。
厳密には「確率1の意味で、条件付き期待値は一意に決まる」ことが、 Radon-Nikodym の定理を用いて存在と同時に示されます。
「存在と一意性」について言及した上であれば、授業で説明したものは「正式な」条件付き期待値の定義になります。

あと、説明するときに「最初のn回目までのコイントスの結果だけに・・・」と言ったり書いたりするのが大変なので、情報の増大系を表現するための次回以降は都合のよい記法を導入していこうと思います。


また、前回の宿題の振り返りで少しふれた「誕生日のパラドックス(本来の意味でのparadoxとは意味あいが違う)」についてはご存じの方も多いと思いますが、例えばこちらを参照してください。

最後に、最近藤田先生が新しい本を出版されたので、紹介しておきます。
ランダムウォークと確率解析―ギャンブルから数理ファイナンスへ」(日本評論社)です。

連続時間モデルで使われる確率解析の道具は、離散時間モデルではどのように表現されるかという点へのこだわりがすごく、その点では非常にユニークなテキストになっていると思います。
それでいて、数学的には非常に豊富な内容が含まれています。

後期の藤田先生の金融数理の授業はこの本の内容をベースに行われるのではないかと推測されます。

2008年5月12日月曜日

「金融数理の基礎」第3回宿題レポート【返却】

「金融数理の基礎」第3回宿題レポートを返却します。

共同研究室からメールで連絡があると思いますので、8階の共同研究室の
ドアのところ個人フォルダから受け取ってください。

採点内容やコメントについて質問・異議等ありましたら、直接中川まで。

2008年5月10日土曜日

「金融数理の基礎」第3回宿題コメント

宿題についてのコメントです。

第3回宿題の略解をイントラネットにアップしておきました。

全体について:

 何ページにもわたって解答が書かれていたり、答えがどこにまとめてあるのか分かりにくかったりするレポートが多く、中身以前のチェックがけっこう大変でした。
 レポートは、採点者が読みやすいように書くことも意識してほしいと思います。問題を解いたときの思考過程を全てレポートに書く必要はありませんし、思考の自然な流れのままに書く必要もありません。特に、解答そのものや説明の核になる部分は、できるだけまとめてわかりやすく書いてほしいと思います。
 皆さんも仕事に関係するドキュメントを目にするときに、結論や議論のポイントがすぐに把握できないドキュメントを読むのはつらいと思いますが・・・

問1:各時点・各状態での株式保有単位についてはほとんどの人がきちんと議論できて答えも正しく求めていました。オプションを売る立場のヘッジと混同していて、符号の勘違いをしている人が若干いましたが、
 株式保有単位が決まってしまえば、マネーマーケットで取引すべき額は自明だと考えたのか、マネーマーケットでの取引については文章だけで済ましている人が何名かいました。おそらく自身では計算できる(できた)のでしょうし、解答が冗長いなってしまうと考えて省略したのかもしれまえん。ただ、この問題では確認の意味で、具体的な数字を与えたうえでの問題なので、いつ・どの状態のときに、どれだけの額を具体的にマネーマーケットで運用or調達することになるかも明示してほしいところです(次に述べるような勘違いの可能性を確認できないので)。
 また、マネーマーケットでの運用(調達)額を明示している場合でも、オプションの価値もマネーマーケットでの運用分に含めてしまっていて、実際にマネーマーケットで取引すべき額とは異なる数字を答えている人もいました。
 他には、特定の状態のときのみ具体的な数字を出して議論している人がいましたが、後述するような一般論を考えていないのであれば、この問題に関しては不十分という気がします。

 数値を全てのケースについて具体的に書くのが大変と感じたのであれば、一般論を展開して戦略を表す数式を具体的に与えるという答え方がもっともスマートな方法だと思います。各時点・各状態に依存した株の保有単位とマネーマーケットでの運用(調達)額は、単に連立方程式の解ですから、数式で明快に表せます。先に、一般解を求めてから数値を当てはめてみるという解答が、個人的にはベストと思っています。

問2:(1)題意を勘違いした人や、y が単なる和を表す変数なのに平均をとったものと勘違いして、いる人が若干いました。正しく再帰的アルゴリズムの関係式を出していた人は半数くらいでした。

(2)結果を見る限りは、ほとんどの人が正しい解答を得ていました。ただし、(1)で答えた再帰的アルゴリズムではなく、コイントス3回の結果8通りの場合に従って答えを導いている人が多かったです。まあ、この問題では(1)のアルゴリズムを用いるメリットはあまりないので、手法は問わず、答えがきちんと出せたかどうかを評価しました。

(3)最後まで整理した形で解答した人は意外と少なかったです(テキスト自体が整理していない形を出しているので問題はないのですが・・・)。(1)と同様に、題意を勘違いした人や、y の意味を取り違えている人が若干いました。

問3:ポイントは、あのような1期間3項モデルの設定では、「無裁定の条件だけからは複製戦略は見つからない or リスク中立確率が一つに決まらない」というところに気づくことです。
もし、特に意図的に他の条件や仮定を加えずに、複製戦略が求められたり、リスク中立確率が1つに決まっているとすれば、無裁定以外の情報を自分で補っていることになります。
「複製戦略が一意に求まらない」と表現していた人がいました。間違いではありませんが、「一意に求まらない」というのは「複製戦略が複数ある」という意味で使うことが一般的なので、「存在しない」ことを表す表現としては適当とは思えません。

完備のときと同じ議論ができないことに気づいた後の議論の方向としては次のようなものが考えられます。
  • 別の制約条件(効用関数とか分散についての制約)やモデルで与えている株以外の危険資産の存在を仮定するなどして、複製戦略や唯一のリスク中立確率を決めにいこうというアイデア
  • リスク中立確率が存在することは言えるので、妥当なリスク中立確率の範囲(集合)を見つけて、妥当な価格の範囲を議論しようというアイデア
  • 売り手および買い手のどちらかに裁定機会が存在しないようにするための条件を議論して、妥当な価格の範囲を議論しようというアイデア
1つ目に関しては、明確に意識している人はあまり問題はないのですが、明確に意識しているようには思えないのに一意に価格が決まるような議論をしている人が少しいました。それは無裁定 or リスク中立という以上の条件を自分で付加していることに注意してください。

2つ目と3つ目の考え方は同値で、最終的に同じ fair price の範囲が与えられます。
今回の権利行使価格5のコール・オプションの妥当な価格の範囲は 0.6<V(0)<1.2 になります。
0.6 以下だと買い手有利、 1.2以上だと売り手有利になります。
きちんとこの範囲に言及している人も少しだけいました。厳密ではなくとも 0.6 や 1.2 という数字に気づいていた人もいました。

問4:(1)(2)(3)(5)は、正解している人が多かったです。リスク中立確率の計算で p と q の算出式を逆にしてしまった人がいましたが・・・
(4)は最小の場合はほとんど正解でしたが、最大の方は間違えてしまっている人が少しいました。
(4)についてはコンピュータで最適化を試みた人、オプション価格と原資産価格や上昇率などの理論的関係に注目して演繹的に解答した人、その両方を行っている人の3タイプに分かれていました。

計算機に頼った人で最適化を総当りでやらなかった場合には、アルゴリズムによっては初期値に依存してしまって最大ではなく極大に収束してしまう可能性もあります。
実際にいろんな誕生日のパターンで問題を解いて、MとDの2軸に対するオプション価格を3次元グラフに描いてくれた人がいました。描かせてみると分かるのですが、山が2つ現れるようなグラフになってしまいますので、局所最適のアルゴリズムだと最大がある方の山に行ってくれない可能性もあると思います。
きちんと理論的に上昇率とオプション価格の関係を捉えようとしていた人の中にも、最大値をとるのは単調増加しているところの最後の時点と決めつけてしまっている人が少しいました。単調減少している部分の出発点も最大値を取り得ます。

あと(3)は単に差を計算せよ、という以上に実は意味があります。コールとプットの価格は人によって違っていても、あることが共通な人は価格差は同じになります。そのことに気づいてコメントしてくれた方もいました。価格差が同じになる条件は何か、気づいていない人はもう少し考えてみてください。

2008年5月9日金曜日

5/8(木)「金融市場の計量分析」第5回

P. Schonbucher,
"Modelling Dynamic Portfolio Credit Risk",
Working paper
(2003)

の2節の Bayesian view での整理と、3節・4節の内容について。
記号に惑わされた。

「金融数理の基礎」第3回宿題の提出に関して

5月8日(木)提出期限の「金融数理の基礎」のレポートの提出が確認できているのは、以下の21名です。
提出したはずなのに自分の id が載っていないという人は至急連絡ください。

IK08F002, IM05F023, IM07F028, IM07F029, IM07F031, IM07F037,
IM08F007, IM08F010, IM08F013, IM08F017, IM08F020, IM08F023,
IM08F024, IM08F026, IM08F027, IM08F028, IM08F030, IM08F037,
IM08F038, IM08F039, IM08F040

以上の人の分については、一通り目を通しました。

宿題に関するコメントは土曜日あたりにアップしたいと思います。
レポート自体は12日(月)には返却できるようにしたいと思います。

5/13(火)「金融数理の基礎」第4回:二項モデルの確率論的整理(1)

第4回目では、メインテキストの2.1節~2.3節の内容を扱います。中心は「条件付き期待値」です。
また、宿題の内容についても少し触れたいと思います。

予習時のポイント(授業において重点的に説明するところにもなります)として、以下の項目を挙げておきます。

  • 有限確率空間、確率変数、分布、期待値などの用語の確認(すでに授業の中で使っていますので、この辺はさらっと進める予定です)
  • 条件付き期待値の記法と何を表しているかのイメージ
  • 条件付き期待値の重要な性質
授業では、条件付期待値については、本来の定義や別の特徴づけについても説明したいと思います。

5/14(水)「フィナンシャル・リスク・マネジメント」第6回:市場リスク(3)

第6回目は、金利リスクに関する話題が中心です。

準テキストでずばり当てはまるところはありませんが、2.1節の Example 2.6(bond portfolio)には触れておきたいと思います。

予定としては、

  • 金利の数式表現、期間構造のモデル化
  • ポートフォリオの金利リスク管理のアイデア(grid point sensitivity, cashflow mapping)
  • VaR 算出方法
といった話題に触れたいと考えています。
(プレゼン資料は多めに作りますが、重要と思われるところをピックアップして話したいと思います。Vasicek モデルとか CIR モデルとか HJM モデルとか BGM モデルとか、個々の確率微分方程式モデルの話はしません)

あとは、第1回レポート課題についての補足説明、中間試験の出題範囲と出題内容についても説明する予定です。

2008年5月7日水曜日

「フィナンシャル・リスク・マネジメント」第5回フォロー(注意!)

第5回目の講義資料・プレゼン資料・参考ファイルおよび前回の課題の各自の解答はイントラネットにアップしておきました。(期待リターンの符号処理を適切にしていませんでしたので、後述するように第4回課題解答およびヒストリカル法参考のExcelファイルを一部修正しました)

ちなみに、前回の課題である33業種ポートフォリオの投資ウェイトおよび規定の方法に基づく95%VaR,95%ES を記入したテキストファイルを提出した人は、以下の20名です。
提出したはずなのに自分の id が載っていないという人は至急連絡ください。

IM05F023, IM07F001, IM07F016, IM07F023, IM07F024, IM07F028,
IM07F029, IM07F031, IM07F037, IM07F044, IM08F007, IM08F017,
IM08F020, IM08F023, IM08F024, IM08F026, IM08F027, IM08F037,
IM08F039, IK08F001

ちなみに改めて確認したところ、私が意図した方法で 95%VaR および 95%ES が算出できていると判定できた人は2名だけでした。授業の段階で正しいと判定していた8名は、私を含めて後述するような小さな処理忘れをしていたことになりますね・・・
私の作業手順の指示はわかりにくいとは思いますが、できている人もいるので全く理解できないレベルではないということですね。ただし、うっかり必要な処理を忘れやすいということですね・・・

私の計算しなおした結果と一致していない人はもう一度トライしてみてください。どうしても出てくる数値が食い違う人は質問してください。ただし、こういう作業は最初のうちはミスをした方が学ぶところは多いので、あまり心配しないでください。まずはやってみるということに価値があります。
・・・とか、えらそうに書いていましたら、受講生の方から質問があり、結果的に私の処理ミスをご指摘いただきました。

準テキストでは損失が正になる見方でVaRやESを計算しているので、準テキストに沿ってVaRの計算に組み入れるときの期待リターンは(-1)を掛けて符号を変えたものにしないと厳密には正しくありません。

したがって、期待リターンはいずれも0に近いので最終的な結果にそれほど大きな変化は及ぼさないにせよ、小数点3桁目くらいが変わってくる可能性はあり、授業で紹介した私の判定法だと間違いとされた人が本当は正解である可能性があります。
(個々の解答の一致不一致については上述のとおり改めて確認しました。授業の段階でNGと判定してしまった2名の方、大変失礼いたしました。)

今回の課題は、手法は問わないが、今後の2ヶ月くらいの自分のポートフォリオのリスク管理のために妥当と思われる1日あたりの 95%VaR および 95%ES を(率で)決めてほしいというものです。どんな方法にしても、せいぜい数%くらいの値にしかならないはずですが・・・
(データ処理の際には、上の赤いところにも注意してください)

配付資料に書いてある要領で、5月14日(水)正午までにファイルを送ってください。
どのような方法で最終的に決定したかは、レポートに記述してもらうので、きちんとまとめておいてください。
また、期間が短いですがバックテストも行う予定なので、発展課題2についても事前に検討しておくと最後の作業がやりやすいでしょう。

授業では、いつものように時間が押してしまい、バックテストのところの説明が尻切れトンボになってしまいましたが、プレゼン資料では説明したい主な内容はおおよそ終わっているので、残りは目を通しておいてください。

授業でも紹介しましたが、今回のプレゼン資料作成の参考にした本を挙げておきます。
もちろん他にもわかりやすい本はあると思います。

蓑谷 千凰彦「金融データの統計分析」東洋経済新報社
※正規性や系列相関、独立性の検定などの参考に。時系列分析全般にわたって書かれている。一から読もうとするには難しいかも。

吉藤 茂「図説 金融工学とリスクマネジメント―市場リスクを考える視点」金融財政事情研究会
※VaR のバックテストなどの参考に。市場リスク計測については細かいところも詳しく書かれている。背景をおさえていないと、一から読むには難しいかも。

2008年5月2日金曜日

5/1(木)「金融市場の計量分析」第4回

P. Schonbucher,
"Modelling Dynamic Portfolio Credit Risk",
Working paper
(2003)

の Example の検討など。
あとは

Fournié, Lasry, Lebuchoux, Lions, Touzi,
"Applications of Malliavin calculus to Monte Carlo methods in finance",
Finance and Stochastics, 3, 391-412 (1999)

の続き。4節のアジアン型のデリバティブの場合の delta の計算について

「フィナンシャル・リスク・マネジメント」第4回フォロー(問3の解答)

「フィナンシャル・リスク・マネジメント」第4回目の授業でやり残した VaR 計算の演習問題の解答です。

問3
(i) A の 95%VaR = 1億×1.64×0.01=164万(円)
  B の 95%VaR = 2億×1.64×0.01=328万(円)

(ii) 投資比率は w_A = 1/3, w_B = 2/3 になることに注意。
このポートフォリオの分散は
(1/3)^2× 0.01^2 + (2/3)^2 × 0.01^2 + 2× (1/3)×(2/3)×0.01×0.01×0.3
=0.01^2 / 3^2 × 6.2

ボラティリティはこの正の平方根なので、 0.01/3×2.49 = 0.0083 0.83%

(iii) ポートフォリオは総額3億になるので、1日あたりVaRは、
   3億×1.64×0.0083=408.36万円

  ルートt倍法で、25日間のVaR を求めるためには、1日VaR を √25 = 5 倍すればよい。

  よって、5×408.36万円=2041.8万円

「ファイナンシャル・リスク・マネジメント」第3回課題レポート【返却】

「ファイナンシャル・リスク・マネジメント」第3回課題レポートを返却します。

共同研究室からメールで連絡があると思いますので、8階の共同研究室の
ドアのところ個人フォルダから受け取ってください。

採点内容やコメントについて質問・異議等ありましたら、直接中川まで。

2008年5月1日木曜日

5/7(水)「フィナンシャル・リスク・マネジメント」第5回:市場リスク(2)

第5回目は、VaRに関する話題の後半についてです。

準テキストでいうと、2.3.2,2.3.3,2.3.5節の内容にあたることをメインに扱います。3.1.4節の内容にも少し触れます。

  • ヒストリカル法およびモンテカルロ法による VaRの計測の概要
  • 正規性および独立性の検定に関して
  • バックテストの考え方
  • 第1回レポート課題の説明
準テキストが手元にあれば、該当部分にざっと目を通しておいてください。

特に予習するポイントはありませんが、検定に関する話題が後半続きますので、検定について(特に第1種の過誤、第2種の過誤)復習しておいてください。

「フィナンシャル・リスク・マネジメント」第3回レポート講評

「フィナンシャル・リスク・マネジメント」第3回レポートに対する講評のコメントです。
(レポートは連休明けに返却します。気になる部分には赤い字でコメントしてあります。私のほうで書き込みしたものを消したりしてレポートを汚くしてしまった人もいます。ご容赦ください)

発展課題1については、解答の仕方がいくつかのパターンに分かれていました。大まかにまとめると次のような感じです。
  • J.Hullの本などに紹介されているような、数理ファイナンス的な商品先物の理論式と関連させてリスク・ファクターを特定しているもの。現物価格や金利、保管コストやコンビニエンス・イールド、(現物価格を外貨ベースで採用した場合)為替レートなどが多くあげられていました。(先物価格や先渡などの用語の使い方が適切ではない感じの方がいました)
  • 特に数理ファイナンス的な理論背景には言及していないが、市場金利、株価指数、他の先物価格、商品先物指数などに連動しているという市場観に基づいてリスク・ファクターを提案しているもの。実際に回帰分析を試みているもの(結果は必ずしも良好ではなかったが)もありました。
  • 実際に数値化、ファクター化できるかどうかはともかく需給面に注目したリスクファクターの提案をしているもの。例えば、農産物の先物であれば、GDP増加率や天候、季節、単位あたり生産高のようなものを挙げていたり、原油の先物であれば在庫に注目していたりというもの。実際の価格推移データも示しながらマクロ的に考察しているものもありました。
個々の解答に対する私のコメントは赤字で書いておきました。参考まで。
全体に対するコメントとしていくつか挙げておきます。
  • 時間変化についての効果。一次近似した場合に、時間変化の感応度を無視しているものがありました。先物は限月という取引期限があるので、時間の影響も考えるのが自然のような気がします。理論式はどのようなものであれ、限月までの残り期間の関数で先物価格は表示されます。
  • 金利の対数をファクター化していた人がいます。間違いではないですし、事実そういう処理をした経験が私にもありますが、金利の変化は差でとらえる場合が多いような気がします。現物価格や為替レートは対数をとってリスク・ファクターとみなしている人が多かったです。準テキストに沿った見方でよいと思います。反対に、私がイントラネットにアップした参考資料では現物価格や為替レートをそのままファクターとして扱っていますが、対数をとって表したほうが準テキストに整合的ですね。
  • 先物価格そのものをリスク・ファクター化して、そのポートフォリオ価値を考えている人もいました。現実の市場では、現物価格を先物価格の関数として扱う方が自然な見方かもしれません。理論家のなかにも先物のほうを原資産とみなすべきという提案をしていた人もいました。
発展課題2についても、解答の仕方がいくつかのパターンに分かれていました。大まかにまとめると次のような感じです。
  • 損失の和の確率が0以下になる確率だけを、畳み込みの観点あるいは独立性の観点から計算しているもの
  • 損失の和の確率が0以下になる確率だけを、L_1, L_2 のとりうる範囲で場合わけをして個々の確率を計算しているもの
  • 損失の和の密度関数を、畳み込みの観点あるいは独立性の観点から計算してから分布関数の議論をしているもの
私がイントラにアップしたものは一番最初の立場です。畳み込みを明示的に行わず、独立性だけを使って自然な密度関数の積分計算にもちこんだつもりです。
応用上もっとも優れているのは、密度関数を求めにいくアプローチのように感じます。

0.855という答えは先に与えていたので、答えがそれに合うように方法を試行錯誤された方も多いのではないでしょうか?もし0.855を与えずに計算してもらったら、どれくらいの正答率になっていたか興味あるところです。

いずれにしても場合分けをする必要が出てきますが、多かった間違いは、その場合分けが不完全なものです。
そのほか微妙な議論の部分にはコメントをつけています。
(私が慣れている考え方と異なる解答をしている人に対しては、私のほうで勘違いしている部分があるかもしれませんので、コメントがあるからと言って自分が間違っているとは思わないでください)

私は自分では計算していませんでしたが、損失の和の密度関数をきちんと計算されていた方が2名いました。
お二人があっていたので正しいと思われます。答えを参考までに転載させていただきます。

【L_1+L_2 = l の範囲とその範囲での和の密度】
(-∞,-2], (4, +∞) のとき 0, (-2,-1] のとき 0.405, (-1,0] のとき 0.45, (0,1] のとき 0.09125,
(1,2] のとき 0.04875, (2,3] のとき 0.00375, (3,4] のとき 0.00125

また、アップした参考資料のように、和の90%-VaRが実際にいくつかを議論している人はほとんどいませんでしたが、近似値を出していた方がわずかですがいました。私の出した結果と差が無いので、私の計算はたぶんあっているのでしょう・・・

Give up した方も少なからずいましたが、特に恥じることはありません。
現実にこうした計算ができないとリスク管理ができないわけではないので。
ただ、独立な確率変数の和の分布はどう計算されるのかを、この機会に調べてみてほしいと思います。
実務的には和をとる変数の数が一般の場合には、畳み込みを直接行うよりも、Fourier変換を用いて計算する方が普通だと思います。

畳み込みの計算が詳しく説明してある参考書を紹介してほしいというコメントがありました。
いま手元にはないのですが、
 国沢 清典編「確率統計演習 1 」培風館
などは計算例がたくさんあったと思います。
たしか、アクチュアリー試験の1次の数学の参考書として以前挙げられていたような記憶があります。

他にも確率の基本的な問題集には詳しく解説などが載っていると思います。
私がよく見るような本だと具体例はあまり載っていないです・・・