2008年4月24日木曜日

「フィナンシャル・リスク・マネジメント」第2回レポート講評

「フィナンシャル・リスク・マネジメント」第2回レポートに対する講評のコメントです。
(レポートは近いうちに返却します。気になる部分には赤い字でコメントしてあります。特に問題なければ何もコメントしていません)

問題1は、ベイズ公式などと呼ばれる条件付き確率の計算方法を確認する問題です。
答えは 約3.88%となります。
単純な計算ミスも含めて間違えた方が数名いました。
ここでは解法はあえて示しませんので、考え方を間違えていた方は「ベイズ 条件付確率」などをキーワードにして教科書等で考え方を復習してください。

ほとんどの方が計算だけでしたが、感想をつけてくださった方がいました。
「例えば、この課題でモデルが『正常企業に対してデフォルト懸念企業であると判別する確率」が1%であったとしても、求める確率が50%以下(約44.7%)となることについて直感的には違和感があった」
とコメントがありました。
#さて、この方はどういう計算をしたのでしょうか?
#あるいは皆さんはこの問題を通じてどういうことを思ったでしょうか?

もともと起こりにくい事象を検知精度の高いモデルを使って検地しようと思っても、
実際にはノーマルな事象が何らかのせいで検知される割合の方が圧倒的だということですよね。
「オオカミが来たぞ!と叫んだ少年」を想起したのは私だけでしょうか?

問題2は、大まかに分けると以下のような応用例が挙げられていました。
(実際にはもう少しアバウトに書いている人が多かったのですが、気持ちを汲み取ってまとめてみました)
  • 業種、地域、あるいは財務データ項目や信用モデルのアウトプット等で、企業群をグルーピングして、それぞれのグループのサンプル企業の中に含まれるデフォルト(懸念)企業の割合を計算して、ある2つのグループの母集団についてのデフォルト率に有意に差があるかどうかを検定する。その結果として、グループごとに貸出金利を変えるとか、グルーピングに用いる財務項目やモデルの見直し等の指針に使う
  • 業種や企業規模、あるいは割安・割高指標などで、企業群をグルーピングして、それぞれのグループの投資リターンの平均を推定し、ある2つのグループの母集団につ いての平均投資リターンに有意に差があるかどうかを検定する。その結果として、投資比率や運用戦略の 見直し等の指針に使う
前者のようなデフォルト率に関する話題を挙げた方がほとんどでした。
いちおう私が想定していた例もこれにあたります。
ただ、「対応の無いデータの母比率の差の検定」ということをそれなりに意識して、上のように書いている方はあまり多くなく、どちらかというと雰囲気だけで書いているという印象の人が多く見受けられました。
金融リスクの話になじみが無い人にとっては精一杯かもしれませんが、自分の考えが妥当かどうかはもう少し掘り下げて考えられると思います。

厳密にいえば、上の書き方でも不十分です。本来はサンプル数をどうするかという話や別グループの企業間に信用力に関する強い関連性などがないと仮定するとか、そういうことも考慮する必要があるからです。

後者の例は、集団の中である属性をもった個の比率について議論するという視聴率やデフォルト率の例からはずれていて、教科書などでは「母平均の差の検定」という範疇に含まれる例かと思います。本質的にはあまり変わりないと思いますが。
ただし、こちらも検定をどのように使うかをきちんと説明している人は多くありませんでした。

あと、「コンプライアンスに関する研修を受講したかどうかでの事務ミス削減に効果があったかどうかの検定」という例を挙げた方もいました。テーマとしては興味深いですが、どういう検定になるかを掘り下げていったときに、「対応の無いデータの母比率の差の検定」というカテゴリーで説明できるかという点で、もう少し詳しく考えてほしかったです。

また、デフォルトや投資の例で、「異なるモデルのアウトプットに差があるかどうかの検定に用いる」というコメントをされた方も何人かいました。
これ自体、検定の枠組みで捉えられる問題だと思いますが、「ある虫眼鏡で2つのグループの性質の違いを見極められるか」という話と「2つの虫眼鏡で1つのグループを見たときに見え方が違うか」という話でいうと、後者の話に相当していて問題の質が違うので、「対応の無いデータの母比率の差の検定」の枠組みで自然に議論できるかは疑問に感じました。

一番感心したレポート(というか相対的にみて感心してしまっただけなのですが)は、具体的な数値例を設定して、t検定統計量を計算してみて、有意かどうかを調べるということをやっていた人のものです。
これは結構大事なことです。
自分が考えたことが果たして、視聴率の差の検定と同じような枠組みでとらえられるかどうかは、実際に例を考えてみればよく分かると思いますし、問題点があるとすればどのあたりかということも分かるはずです。

計算などを試してみたけれど、レポートに書かなかっただけという人もいることでしょうが、
具体的な数値例も示してもらえると、その人が説明したかったことなどもこちらが読み取りやすくなります。

であれば、問題文にそう指示してほしいという方もいるかもしれませんが、
言われたとおりのことを調べたり計算したりするだけであれば、大学院で学ぶ意義はあまり無いと思います。
大学院生である以上、言われたことがある程度できるのは当たり前で、それを踏まえて物事を批判的に見たり、自分で問題を再設定したりして、思考を広く深くしていくことが重要になると思います。
演習や宿題はそのキッカケにすぎません。
(テーマに教員バイアスはかかっているので、それ以上考える興味が沸かないのかもしれませんが・・・)

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