2008年4月15日火曜日

「金融数理の基礎」第2回フォロー

第2回目の宿題プリント(配布したもの)はイントラネットにもアップしておきました。

宿題は、次回の授業(4/22)のときに、レポートとして提出してください。

なお、No Arbitrage の定義のところでクイズにしたことですが、
(NA)の条件の一つの表現としては、
「X_0 = 0 のとき、すべての実数 Δ_0 に対して、P(X_1 >= 0)<1 または P(X_1 > 0)=0 となる」
ということになります。
 P(X_1 >= 0) <1 は P(X_1 < 0) >0 と同値
 P(X_1 > 0)=0 は P(X_1 <= 0) = 1 と同値
です。

行列で表現した条件の方が考えやすければ、そちらで考えてもかまいません。

今日の授業の進み方は速かったでしょうか?普通だったでしょうか?ゆっくりだったでしょうか?
私にしてみると「気持ちゆっくり」でした・・・
(ブログの右上のところに投票コーナーを設けてみました。皆さんの意見を聞くという目的もさることながら、この機能を使ってみたかったというのが先にありました・・・)

「リスク中立」の部分を本質的に理解するとなると、経済学でいうところの「選好」や「効用」という概念をもとにして考える必要があると思います。
また、なぜデリバティブの価格付けに「リスク中立」(という名前の)概念が登場するかという直感的な説明も私からうまくできればよいのですが(他の先生はうまく説明されると思います。ぜひ質問してみましょう!)、私の用意している答え(というか一番腑に落ちた説明)は
「デリバティブの価格付けをする際の複製の考え方の中に、リスク(分散)に関係する要因が含まれていないから」ということになるかと思います。リスクに関係する要因というのは、具体的には「実世界の確率」を指します。

リスクの計算には実世界の確率を使いますが、それを使わずに複製費用としてデリバティブの適正価格が求められたわけですから、デリバティブの価格付けが本質的にリスクとは無関係に議論できる、すなわちリスク中立的な見方で議論できるのはごく自然な帰結とも思えます。

他の説明の足りなかった部分のいくつか&次回の予習ポイントについては、改めてアップします。

4 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

受講生の矢野です
質問があります。

「デリバティブの価格付けをする際の複製の考え方の中に、リスク(分散)に関係する要因が含まれていないから」

これについて直観的に理解することは可能なのでしょうか?
これを受け入れた場合には、リスク中立確率による計算というのが妥当性があるとは思うのですが…

匿名 さんのコメント...

中川です。

矢野さん、実質的に初めてのコメントをありがとうございます。

#「デリバティブの価格付けをする際の複製の考え方の中に、リスク(分散)に関係する要因が含まれていないから」
#これについて直観的に理解することは可能なのでしょうか?

授業の最初の方で、P(H)=p, P(T)=q という、確率をいちおう導入しておいたのですが、結局その後の複製の議論の中でp, q は全く使っていないということです。

複製戦略の議論では、S_1(H),S_1(T),V_1(H),V_1(T)
という「確率変数」の値を使ってはいますが、それらはp,qという「確率」の値そのものとは無関係に与えられていることに注意してください。

そういう意味で「複製の考え方の中に、リスク(分散)に関係する要因(実確率)が含まれていない」ということが(少なくとも私には)直観的に納得できています。

答えになっているでしょうか?

匿名 さんのコメント...

矢野です

数学的には理解できます
無裁定を仮定した場合に、価格には原証券の確率は反映されないと。

なぜ投資家は、原証券の確率を無視して取引をするのか?のような側面から、経済学的な用語で理解できないのでしょうか?

匿名 さんのコメント...

中川です。

#なぜ投資家は、原証券の確率を無視して取引をするのか?のような側面から、経済学的な用語で理解できないのでしょうか?

単に株に投資して、将来の資産を増やそうという目的での投資戦略を考えるのであれば、予算等の制約の下で、通常は期待収益(実確率での平均)を最大化、あるいはリスク(実確率での分散)を最小化することになります。
その際には、株価が上がる下がるの見込み確率としての実確率および投資家の効用関数などを定式化しないと最適な戦略を考えることは不自然です。

しかし、複製という行動は、もし株が上がったら○○に一致して、下がったら△△に一致するような株の保有量と初期費用を決められるのであれば、決めましょうという行動になります。
その際には、それぞれの可能性にどれくらいの確率が見込まれているという情報は不要ということが分かるので、リスク回避度が高かろうが低かろうが、その人が合理的な判断ができるのであれば、同じ方程式の問題に行きつき、みな同じ答えを得ることになります。

次回の授業で触れますが、無裁定でも非完備な市場だと価格は一意に決まりませんので、その場合には効用などを持ち出して適正な価格を決めようというようなアイデアも提唱されています。