2008年4月24日木曜日

「金融数理の基礎」第2回宿題の講評

「金融数理の基礎」第2回宿題の講評コメントです。
(不等号の半角記号をそのまま使うとタグだと認識されてしまうのを忘れていたので、編集に手間取りました。面倒なので不等号は全角を使います。)

レポートは近いうちに返却します。正解とみなしている人は問題番号に赤丸をしてあります。気になるがある部分には赤い字でコメントしてあります。特に問題ないと判断してあれば何もコメントしていません。

成績管理上は、正解問題数をポイントとして記録してあります。
これはそのまま最終成績に加算するものではありませんが、試験の成績が万が一振るわなかった場合の救済措置としてのエビデンスに使用することは考えています。
また、宿題を出さなかったからと言って直接的なペナルティはありませんが、宿題に向き合うことがそのまま試験対策になるようにしているつもりです。

問1はきちんとできている人は少数でした。
間違いの典型としては、以下のことが挙げられます。
  • 株の購入単位Δが正の場合でしか成り立たない議論をしている(Δ=0, Δ<0では様子が変わります)
  • 背理法の適用が正しくない。本質は「d<1+r < u ⇒ No Arbitrage」ということなので、背理法を用いるとすると、結論の「No Arbitrage」を否定したうえで、「d<1+r < u」と「arbitrageが存在する」を仮定して矛盾が生じることを示す必要があります(実は対偶を示すという形になっています)。背理法を用いた人の多くが、テキストとほとんど同じく「No Arbitrage ⇒ d<1+r < u」の説明になっていました。
  • 「d<1+r<u」の否定を考えようとした人に、「1+r<d」「u<1+r」としている人が多く見られました。等号も入れる必要があります。
  • 数式の記法が若干変
特に解答例は示しません。上のコメントをヒントに考え直してください。

問2はポイントをついていれば正解扱いにしています。○の付いている人は問1よりはだいぶ多いです。
間違いの例として
  • X_1(H)>0, X_1(T)<0 と決め付けて議論している。不等号が反対になる場合もあります。
  • 数式の記法が若干変
がありました。ポイントはどちらかが正だともう一方は負になることを式で明らかにすることです。
give up された方もいました。

この問題の(隠れた?)メッセージとして私が読み取ったのは、
「株式現物とマネーマーケットで No Arbitrage が成立していれば、株のオプションをポートフォリオに加えてみたところで arbitrage を見出すことはできない」ということです。
複製できるので当然なのですが、この設定ではデリバティブを導入してもそれは本質的に資産数を増やしたことになっていないということですね。

問3は、計算しなくても答えに気づいた人がいるかもしれません。答えは S_0 です。
この問題は、計算して S_0 になることに気づくというよりも、S_0 に気づいて、それに向けて式変形を行っていくということができた人が真の正解になると思います。
要は株自身もデリバティブだとみなすことができるけれど、株の時点0での価格はS_0なのだから、そうならないとおかしいと気づくことですね。これが(隠れた?)メッセージだと思います。

間違いの例として
  • V_0 = S_1/(1+r) というような式を挙げているもの。左辺は定数で、右辺は確率変数になっているので、それが等号で結ばれているのは変です。S_1(H) や S_1(T) と書けばこれは定数扱いになります。
  • S_1(H)=uS_0, S_1(T)=dS_0 のような書き換えに気づかず、計算が途中で止まってしまったもの
がありました。

問4はほぼ全員答えは出せていました。
時点1でのペイオフが3 と 0 で、それぞれのリスク中立確率が1/2 ずつなので、テキストの例題にある strike price が 5 のコールと価格が同じになるというわけですね。
ですから、答えはテキストの例題1.1.1のものと一致します。

ただし、複製戦略はコールの場合と異なります。複製戦略を考えなかった人はそれを確かめてください。暗算で答えが出ます。

プット・コール・パリティに基づいて計算した人もいましたが、今の段階ではプット・コール・パリティの性質自体を既知とするのは適切とは思えないので、それ自体が成立することをきちんと証明してから用いる必要はあります。
大学入試問題を解くときに、高校の範囲を超えるテクニック(l'Hospital の定理とか Taylor 展開とか)を使って解いてもよいのか?ということと同じようなことな気がしますので。

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