2008年4月22日火曜日

「金融数理の基礎」第3回フォロー

第3回目の宿題プリント(配布したもの)はイントラネットにもアップしておきました。

第3回の宿題は、5/8(木)までに、8階の共同研究室にレポートとして提出してください。

ちなみに、前回の宿題レポートの提出を確認できたのは、以下の25名です。
提出したはずなのに自分の id が載っていないという人は至急連絡ください。

IK08F002, IM07F007, IM07F011, IM07F013, IM07F028, IM07F029,
IM07F031, IM07F037, IM07F044, IM08F007, IM08F010, IM08F013,
IM08F016, IM08F017, IM08F020, IM08F023, IM08F024, IM08F026,
IM08F027, IM08F028, IM08F030, IM08F037, IM08F038, IM08F039,
IM08F040

以下、授業の中身に関する補足です。(長くなります)

授業の最後に、例題1.2.4 の数字を変えて出題しました。
(S_0 =9, u= 4/3, d=2/3, r=1/6 として、対象となるオプションは同じ形のルックバック・オプション)

それの解答というか、検討過程を表したExcelファイルもイントラネットにアップしておきました。
参考まで。

あと、授業の冒頭で、No arbitrage の視覚化の話をしました。
矢野さんから指摘をうけましたが、行列表現を用いた書いた部分は、No Arbitrage の「定義」というよりは、あの1期間2項モデルにおける No Arbitrage の具体的な表現にすぎません。
そして、xy平面に図示したものは、その No Arbtirage の表現を目で確認したものにすぎませんので、混乱させてしまったかもしれません。すみません。

伝えたかったのは、有限個の状態で離散時間のモデルは、有限次元の線形代数の話に翻訳できてしまうということと、有限次元の線形代数の話であれば、(無理をすれば2,3次元の)幾何的なイメージでとらえることもできて、それが Fundamental Theorem for Asset Pricing の一般化とその証明のアイデアにつながっていくというように、有限状態・離散時間モデルでは、ファイナンスの概念を幾何的イメージと対応づけられるということです。


ただし、2次元で表現することにこだわったので、ちょっとだけ一般論とは異なった幾何的イメージを使って説明しました。
有限状態・離散時間モデルの一般論に自然に接続するためには、今回の例で言うと
(-(4x+y), 8x+5y/4, 2x+5y/4) という3次元ベクトルで話を進めることになります。

この3次元ベクトルは、
 第1成分が「手元資金がないときに、x単位の株を買って y をrisk-free で運用するときに
借りる金額」
 第2成分、第3成分は、それぞれコインが表、裏だった場合に「借金があれば返して、さらに株をそのときの価格で売却して残った金額」
を意味することになります。

「これら3つの成分が全て0以上で、なおかつ同時に 0 でないような (x,y) がある」場合には、
裁定機会が存在することになるのですが、この場合は、そういう(x,y)は見つからない(つまり
無裁定になっている)ということになります。

これを幾何的イメージでとらえ直すと、
(-(4x+y), 8x+5y/4, 2x+5y/4) は (x,y) を自由に動かすと、原点(0,0,0)を通る3次元空間内の
ある平面を表します。
一方で、裁定機会を表す部分は、この設定だと全ての成分が0以上の領域で原点だけ除いた
凸錐状の領域になります。
先の平面と凸錐状の領域は共通部分をもちません(原点で接するように見えますが、凸錐状の領域は原点を含まないので)が、このように「手持ち資金なしで(あるいは借金からスタートして)行う株の取引と無リスク金利の運用で実現可能な結果」を表す平面と裁定機会を意味する凸錐状の領域が、共通部分を持たないことが一般の設定における無裁定条件の幾何的イメージとなります。

だいぶ読むのに疲れてきた人がいると思いますが、この際なので一気に説明を書くと、
Fundamental Theorem が言っているを幾何的イメージに翻訳すると、
「運用結果の可能性を表す空間の領域と裁定機会を意味する凸錐状の領域は、ある(超)平面で分離できる(一方の領域は分離平面に含まれてもよい)」というもので、今回の例の場合は、
(-(4x+y), 8x+5y/4, 2x+5y/4) で表される平面そのものが分離平面となります。
また、この平面以外には2つの領域を分離平面は存在しません(これは「完備性」に対応します)。

場合によっては、分離平面が無数に存在する場合がありますが、それは無裁定だが非完備
だということに対応します。

次回の予習ポイントについては、改めてアップします。
また、前回の宿題についての総括コメントもできるだけ早くアップしたいと思います。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

矢野です

運用可能領域と裁定機会可能領域に原点以外に交点を持たないというのが、無裁定仮定の要請ということですね。

んで、交点を持たなければ超平面分離定理から分離平面が存在するということは分かるのですが、これがリスク中立確率や状態価格と関係があるということが直感的によくわかりません

この辺は、測度論などを真面目に勉強するしか理解する術はないのでしょうか?

言い換えるとリスク中立確率はこの幾何学的理解の枠組みではどう表現されるのでしょうか?

匿名 さんのコメント...

中川です

#言い換えるとリスク中立確率はこの幾何学的理解の枠組みではどう表現されるのでしょうか?

ここで十分説明しきれないのですが、大まかなイメージだけ。

先の (-4x-y, 8x+5y/4, 2x+5y/4) でx,yを動かして得られる平面に基づいて考えると、これは
(-4 8 2)と(-1 5/4 5/4)という2つの空間ベクトルで張られる平面ということになるのですが、この2つのベクトルと直交するベクトル(外積、つまりこの平面の法線ベクトル)を求めると (15 6 6)というのが得られます。

第2、第3成分を第1成分で割ったもの
(2/5 2/5) がこの場合、H, T に対応する状態価格と呼ばれるものになります。

状態価格を足すと 4/5 になりますが、
これは 1/(1+r) という無リスク金利での割引率になっています。

一方で、(2/5 2/5) を成分の和が1になるように規準化してあげると (1/2 1/2)になるのですが、これはちょうど H,T に対応するリスク中立確率となっています。

ということで分離(超)平面の法線ベクトルが状態価格やリスク中立確率に関係しているということです。

もっとも期待値という演算が、この空間では確率変数の値を成分表示したベクトルと確率ベクトルの「内積」で表されますので、確率もこの空間ではベクトル表示され幾何的イメージを伴って理解しうるもの(無理に理解しなくてもいいと思いますが)ということは
何となく想像できるとよいのですが。

この辺の話が一番詳しく説明されている本としては、
津野義道「ファイナンスの数学的基礎-離散モデル-」共立出版
が挙げられます。
Duffie の Dynamic Asset Pricing Theory の4章までを詳しく解説することを目的としている本なので、Duffie の前半で苦しんでいる人にはある程度救いになっていると思います。

ちなみに、Duffie の Dynamic Asset Pricing Theory の第3版には、私の論文が1本参考文献に挙げられています・・・