2008年6月18日水曜日

「金融数理の基礎」中間試験採点コメント(速報2)

「金融数理の基礎」の中間試験は21名が受験しました。

略解と採点方針はイントラネットにアップしました。

全体の採点を終えました。(見直しは後でするので、最終結果は異なるかもしれません。)



いくつかコメントしておきます。

問題1は全部できていた人が多かったです。(1)で a=0 とした人がいて、ファイナンスのモデルとして負の金利はナンセンスであるという気持ちは分かるのですが、今扱っているモデルは、r>-1 が前提となる制約であり、「無裁定」という条件だけからは金利の非負制約を与えることはできません。

問題2は、(1)で計算ミスと問題の勘違いが若干見られましたが、よくできていました。(2)は「マルコフ過程の定義」とそれを示すために「独立性の補題」をどう使ったかがポイントですが、きちんとできている人は少数でした。g は f を使って表せるということは示していても、なぜそのように書けるかの説明が十分でないものが多かったです。あるいは、(2)はパスした人も多かったです。
(3)は過半の人ができていました。(4)は(1)で計算ミスした人は正答にいきつかないわけですが、計算過程がきちんと分かっている人には部分点を与えています。

問題3は、各指示にすべて整合するように証明を組み立てていけば、解答のバリエーションはほとんどなく、テキストの証明のような式になるはずなので、そこからはずれているものは結果として正しい変形でも減点しました。目立ったのは、(3)式のところで
Δ_n/(1+r)^nE_n[S_{n+1}/(1+r)] (E_n はリスク中立確率測度の下での条件付き期待値のつもり)
と変形して、(4) でE_n[S_{n+1}/(1+r)] = S_n と変形するというものです。
それは結果として正しい式ですが、
(4) で「割引株価過程がマルチンゲール」という指示を使うためには
Δ_nE_n[S_{n+1}/(1+r)^{n+1}]
という形で残しておいて、(4)では
 E_n[S_{n+1}/(1+r)^{n+1}] = S_n/(1+r)^n
と変形することが自然なので、先のような変形は(3)のところで減点しました((4)では結果的に答えてほしい式になっているので減点してません)

問題4 (1) は場合分けの解答が多くよくできていました。この問題は max の処理のところで場合分けをすることが要諦と考えますので、場合分けをせずに証明しているものはいずれも正解とは見なせないと判断して減点しています。示すべきことが自明に見えれば見えるほど、より素朴な手続きで示すことが肝心になります。
(2) もよくできていましたが、(1)の結果と「条件付き期待値の線形性」しかポイントはないので、「(条件付き期待値の)線形性」ということに言及していないものは厳しいと思いましたが減点しました。期待値の線形性は当たり前のように使うことがほとんどですが、それを使って証明する場合、ましてそれが最大のポイントであるようなケースでは、どういう事実を使っているかは言及してほしいです。
(3) は結果オーライにしました。答えだけを書いていた答案もあり、事実として覚えていただけか導出した結果だけを書いていたかわかりませんが、知識として知っていることも評価しました。
ただきちんと導出している答案も多かったです。
(4) は、(3)をひきずって F_0 = 0 を仮定している人がいましたが、それは仮定されていません。ただし設問のつながり方からして、不親切だったと思うのでそれについての減点はあまりしていません。説明不足の答案が多かったのですが、割引株価過程がリスク中立測度の下でマルチンゲールになることをどこかで使って結論を導出していることが分かるものはOKとしています。
(5) は、当てずっぽうで埋めた人が多そうだったので、部分的な正解をどう扱うか少し悩みましたが、1箇所合っていれば2点とすることにしました。また、解答が2通りあるので、点数が高くなる方の基準で採点しました。ただし、本来はきちんと導出できてこそ意味があります。


平均点は問題別に
 問題1:23.5点(/25点)
 問題2:17.1点(/25点)
 問題3:11.7点(/16点)
 問題4:19.3点(/34点)
となっており、全体の平均点は 71.6点(/100点)でした。

最高点は100点(1名)、あと90点台が2名です。

0 件のコメント: