2008年6月5日木曜日

「金融数理の基礎」第6回宿題コメント(少し追加・修正)

第6回分の宿題についてのコメントです。
略解は近いうちにアップする予定です。

以前に比べると、読みやすいレポートが増えてきました。
それでも、説明不足に感じたり、議論をもっと整理してほしいと思うところがあります。

例えば式変形を淡々と行っている解答がありますが、一つの等号でつないでいるところに何も説明せずに複数の性質を使って変形していたりするのは、こちらとしてはきちんと理解しているのか、大事な議論をうやむやにして結果につながるように辻褄をあわせているのか判断に戸惑います。
式変形がいたずらに長くなるのが嫌であれば、「○○と△△、および□□により(or を用いて)」という説明を入れてから、複数の性質を使った変形をしてほしいです。

また、全体としては議論に不備はないとしても、少し見直せばもっと短く端的に説明できる解答も多いです。
テストは時間との戦いなので、議論を整理して解答せよというのは厳しい要求ですが、レポートは(建前としては)検討する時間が十分あるので、自分の思考を整理してから解答をまとめてほしいと思います。
このコメント自体は、講義する自分自身への戒めでもあるのですが・・・

問1:(1) E_n[M_{n+1}]=M_n を示すところは多くの人が良くできていましたが、あともう少し説明 or 詳しい式変形をしてほしいという解答が多かったです。
E_n[X_{n+1}] = 1/2*1 + 1/2*(-1)
と条件付き期待値の式から直接具体的な期待値の計算をしている人が多かったです。
条件付き期待値の定義に沿えば、それも正しいのですが、どちらかというと
E_n[X_{n+1}] =E[X_{n+1}]
と条件付き期待値の独立性の性質から、ただの期待値計算に帰着するというのをはさんでもらう方が、この問題の解答についてはベターだと思います。

また、{M_n} が適合過程であることについて言及する人が増えました。ただ、それが十分な説明であると見なせる人は少数でした。
 
(2) 数学的帰納法を用いた人と、巧妙な式変形を用いて直接示そうという人と、ギブアップした人に別れました。変形のバリエーションは様々ですが、直接式変形する解答の割合が高かったです。
証明すべき式が与えられていて、n と (n+1) の関係に手がかりがあるようであれば、数学的帰納法を試みるのが自然な選択かもしれません。ただ、数学的帰納法にせよ直接式変形するにせよ、対称ランダムウォークの特別な性質をうまく利用できるかどうかがポイントになります。

あと、n=0 の場合に I_n = 1/2(M_n^2 - n) が成立することに言及していない人が多かったですが、触れておく方が議論しては完璧です。n=0の場合だけは自明すぎるため、逆に対称ランダムウォークの式変形では正当化できないので。

(3) 実は、前回の宿題であった練習問題6においてΔ_j を M_j とすれば、{M_n} がマルチンゲールであることを証明しているので、マルチンゲール変換の特別な形と見なせて、前回の宿題(一般論)から結論が得られる、という解答が隠れたベストアンサーだと思って出しました。(この問題だけは私が付け足したものです)

証明は、I_n の定義そのものから前回の宿題とほぼ同じ議論をしているものと(2)の式を使って示すものの2通りに分かれていました。この問題を(2)の前においておけば、おそらく全員が前者のアプローチをとったと思いますが、いちおうこれも意図的に(2)の後において、どっちを選択するかを見るつもりでした。

こちらも{I_n} が適合過程であることについて言及する人が増えました。

(4) は手つかずの人も多く、解いている人の中でもまだMarkov性を十分理解していないと思われる解答が見られました。
任意の時点 n、任意の関数 f に対して、ある関数 g が存在して
E_n[f(I_{n+1})] = g(I_n)
が成り立つことを示すことになります。
このテキストに沿ってMarkov性を示すには、f を用いて g を具体的に表現するのが最も明解な答え方になります。

g を得ている人でも見た目は I_n と M_n の関数のままで解き終えている人がいました。M_n は I_n で表されることは(2)から分かるので、そこで議論を止めたかもしれませんが、M_n は I_n で表すことができますから、最終的に I_n の式だけで表すところまで話を進めてもらうのが肝要と考えます

また、(2)をヒントにした人でも、M_n = "I_n の関数" と表すときの平方根の処理でマイナスの場合を忘れてしまっている人がいました。(結果としてはマイナスを考慮してもしなくても同じなのですが)
全体的にみて、最後の符号処理の議論を含めてきちんと g の表現式を得た人は一人だけでした。

あとテキストの例題のように、I_{n+1}/I_n という比を考えようとしている人がいましたが、株価過程の場合とは異なり、この設定では「I_{n+1} = I_n × 何か」という関係になっていないので比をとる意味はあまりなく、むしろ差に注目する方が自然です。

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