2008年7月25日金曜日

「フィナンシャル・リスク・マネジメント」レポート課題講評

提出いただいた2回分のレポートの採点を終えました。
(のべ4時間くらいかかりました)

試験や平常点も加味した最終成績については(多少見直しするとは思いますが)、レポート提出者は全員合格です。
(試験負担とのバランスで、レポートの方は若干甘いかな?という採点かもしれません)
課題1:33業種インデックス・ポートフォリオの95%VaR,95%ES の算出およびその考察など

さすが社会人大学院生というべきか、力作が多く、興味深く読ませていただきました。

論理性に関しては10点中7点を基準点にして、課題の要求に対して適切に答えられているかを確認しました。また、分散共分散法による VaR を俎上にのせて議論しているときに、リターンの正規性についての検定などの統計的議論やバックテストについての数理的な考察を行っていれば、加点しました。

構成力については10点中7点を基準点にして、図表の使い方が適当か、具体的に用いた計算方法などが過不足なく説明されているか、単純に読みやすい構成か、などを考慮して加点しました。

シャープ・レシオの「シャープ」を Sharp と書いている人がいましたが、Sharpe(ノーベル経済学賞受賞者ですね)が正しいです。特に減点していませんが。
あと、三浦先生の授業のせいか、Shapiro-Wilk 検定で日次リターンの正規性を検定していた人が目立ちました。
その一方で、ヒストリカル法の場合でも適用するための前提となっている、リターンの独立性についてはあまり言及されていませんでした。授業でもスルーしたところでしたが・・・その辺は目をつむっています。



そのほか、ポートフォリオ構築のアイデアなどが独創的と見なされた(なおかつ説得力を感じた)ものについては1点加点しました。仮想ポートフォリオのボーナスは、絶対リターンが全員マイナスだったので見送りました。

課題2:線形判別モデルの構築と検証用データの判別

こちらも力作が多かったのですが、課題1のレポート比べると、若干読みにくいものが多い印象でした。
あまり重要な情報とは思えない表が本文中にたくさん挿入されていたり、重要な主張が長い説明の後に述べられていたりしていて、そうした印象を強めたかもしれません。

ちなみに、検証用データのうち、もともとデフォルト分類のサンプルから取り出したのは、
Y1, Y3, Y7 の3つです。
検証用データの会社名はイントラネットにアップしておきます。

この3つだけをピタッと当てたレポートはありませんでしたが、この3つ+1つというかなり精度のよい判別をしたレポートが2編ありました。
「(デフォルト判別正答数)-(デフォルト判別誤答数)」が1以上の人には1点あげました。

論理性に関しては10点中7点を基準点にして、課題の要求に対して適切に答えられているか確認しました。また、選択した指標と推定された係数の符号関係についての考察、変数選択の方法の説明、(指標数が比較的多い場合には)多重共線性の確認、などをきちんとしているか、などを考慮して加点しました。

構成力については10点中7点を基準点にして、図表の使い方が適当か、単純に読みやすい構成か、などを考慮して加点しました。

また、指標を独自に提案したり、説明変数の選び方に独自性があり、そのファイナンス的あるいは会計的な意味づけがきちんとされていて有効であると判断した場合にはプラス・αとして加点しました。
(新しい指標についてネーミングに疑問をもったものがありましたが、不問にしています)

特に気になったこととして、
「有利子負債」などの金額そのもの(規模指標)を説明変数として採用しているレポートが多かったです。確かに、規模指標は信用力の尺度として優れているのですが、そのまま用いると係数の値が異常に小さく推定されてしまいます。P-値などで有意であることはわかるかもしれませんが、他の指標と値の水準を合わせる(本来であれば、平均を引いて標準偏差で割るなどの規準化するのが有効かも知れません)ようにするなど一工夫が必要だと思います。
レポートでも係数のところを「0.000000」 と表示しているものもあり、これでは読み手に不親切です。
また、有利子負債の場合は、いろんな業種が入っていると単純に有利子負債額の大小と信用力を結びつけるのはあまり有効でないという気もします(これは個人的な見解ですので、採点には影響させていません)。

また、「買入債務回転期間」については、単独で見た場合には、これが大きい値の方が「ツケで買い物できるくらい信用がある」ということを意味するため、Z スコア(大きいほど安全)への貢献という点からすると係数の符号は「正」であることが理屈の上では望ましいというのが私の考えなのですが、反対の解釈をしているレポートもありました。その意味で指標の符号が妥当かどうかをきちんと論じることは今回のレポートにおいて重要なことだと考えましす。


指標選択についても、いろいろなアイデアが提示されていました。
ただ、個人的に気になったのは、最初から定性的あるいは個人的判断で絞りすぎているものです。
もちろん、経験などを活かして絞り込むこと自体は悪くないのですが、今回の財務データでもこれまでの見方が通用すると言えるかどうかは平均値や中央値の比較などでもよいので、定量的に確認してほしいと思いました。
財務データだけを頼りに定量的に全て処理しようという立場も問題ですが、経験や俗説だけでトップダウンで判断しすぎるのも問題だと思います。

特に、これから修論を書こうとするときは、業務の経験とかがかえって邪魔をして、重要な論点を自明としてしまったり、また気にも留めなかったりして、見過ごしてしまう可能性がありますので注意してください。データを前にしたときには、自分の常識を一度疑って分析してみることも必要だと思います(これも受け売りですが)。

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