2008年7月16日水曜日

「金融数理の基礎」第12回分宿題コメント

第12回分の宿題についてのコメントです。

一通り目を通しましたが、もう一度ロジックの確認などをしたいと思います。
返却は来週の火曜日になるかと思います。

採点していて気になったところをコメントしておきます。

問題4.6
(i) r≧0 という条件がきいているのですが、そのことを明確に表現していないものがありました。数学の問題では、解答の中で与えられた条件を適切に使えているかどうかをチェックするので、 当たり前と思われる部分でもでいるだけ丁寧に理由を明示する方がよいでしょう。

あと、S_n/(1+r)^n という割引株価がリスク中立確率測度の下でマルチンゲールになるという性質に注目していた人が多く、それは良い方針なのですが、
E[S_τ/(1+r)^τ] =S_0 という式(期待値は~を省略していますが、リスク中立確率の下での期待値)を何も説明せずに使っている人がいましたが、細かく言うと、ここでは任意抽出定理を使うことになりますし、その場合でもE[S_(τ∧N)/(1+r)^(τ∧N)] =S_0 というように、停止時刻のところを(τ∧N) という形にしないといけません。

(ii) これは、結構採点に悩む解答が多かったです。肝要なところを言葉で説明しているので、本当に分かっているのかどうかがよく分からないのです。数式の扱いに慣れないと難しいことかもしれませんが、
今回、数式でうまく説明するための基本となるアイデアは
 max{f(x)+g(x)} ≦max{f(x)} + max{g(x)}
という不等式です。(f を (i) のペイオフの割引価値、g をコール・オプションの本源的価値の割引価値、x を停止時刻と思えば、今回のケースを考えることができます)

ファイナンス的なポイントは、多くの人が指摘しているように、(i)のデリバティブとヨーロピアン・コールの合成ペイオフが、アメリカン・プット・オプションのペイオフと見た目が同じになるということです。
ただし、不等式の関係を示すということなので、正確には、
(i)のデリバティブとヨーロピアン・コールの合成ペイオフが、アメリカン・プット・オプションのペイオフを下回らないということを適切に示すのが良い方針となります。

(iii) こちらは V_0^EP≦V_0^AP を示すことは難しくないですし、ヨーロピアンの場合のプット・コール・パリティを使えば、それほど難しくなく、比較的よくできていました。

問題4.7
手つかずの人もいましたが、満期まで権利行使しないのが最適という結論は多くの人が得ていました。
ただし、時刻 0 での価値を S_0 - K/(1+r)^N と正しく解答していた人はあまり多くありませんでした。

r≧0 の言及がないものがありました。上の(i)と同様のコメントが当てはまります。

発展課題

4名の方がチャレンジしていました。
理論解をきちんと導出している人はいませんでしたが、漸化式に基づく議論で良いところまでいっている人はいました。ただ、素朴に考えていくと、計算すべき期待値は無限和の形で表されるため(しかも一般項のわからない漸化式が含まれる形)、工夫をしないと自力では計算できません(たぶん工夫は可能でしょうが、この方針では私も実は解けていません)。
数値計算で理論値を導出できている人がいましたので、期待値が有限になると知っていれば、無限和をある程度の有限和で近似するというアプローチも現実的ですね。

4名ともシミュレーションをしていて、そのうち3名の方は理論値に近く収束できていました。
残りの1名は、10回連続ではなく9回連続の場合のシミュレーションをしてしまったのだと思われます。
プログラム中の判定で <10 と ≦ 10 のようなところを微妙に間違えているのではないでしょうか?
私も、VBAをずっと使っていて、たまに C でプログラムするときは、
for と if の条件表記でよくミスしてしまいます。

解法については、何かの機会に紹介したいと思います。
ちなみに理論値は 2046 です。これは 2^11-2 に対応しますが、
実際には、2+2^2+・・・+2^10 を計算したものと見ることになります。

0 件のコメント: