2011年5月14日土曜日

「金融数理の基礎」2010年度秋学期の総括

学生の皆さんの授業評価コメントをまとめたものが共同研究室から送られてきました。
今年度も、おおむね好意的に評価していただきました。
(もちろん、最後まで授業に出た方の声だけが反映されていて、途中で履修取り下げた方の声は反映されていないことを予めお断りしてきます。)
以下、皆さんのコメント(お褒めの内容については割愛させていただきます)および、それに対する回答です。
また、コメントは原文そのままではなく、要点が分かるように私が適当に編集したものも含まれています。

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「前半は抽象的で非常にわかりにくく、残念ながら未だ完全に理解していない。後半は前半でのもやもや感が常態化したため、その比較という意味ではわかった気が少しだけした」
「内容は難しくついていくのが大変だった」
「後半は簡単になってしまったのが残念である。より発展的な内容のコマ(応用数理ファイナンス)などがあれば良いと思う」
「かなり高度な内容で理解を超える部分が多かった」
「前半は難しかった」
「計算式が多くボードに書く量が多いため、どうしてこのような事をするのかといった事や途中の式が除かれるのは残念だった」
「前半部分が難しくきちんと理解できなかった」
「前半はハードだった」
「前半は正直良くわからなかった。ゆっくりじっくり全般を復習したい」
「後半も宿題があった方が良いと思う」


(回答) 率直なご意見ありがとうございます。前半というのは「集合論・測度論・積分論」のパートですね。これらが分かりにくいという意見が多いのは、そもそも扱う内容の抽象度・難易度が高いということもありますが、私自身がこうした数学の内容を(しかも、数学のトレーニングを受けていない方向けに)授業で教えるのが初めてだったという経験不足および指導法研究不足の面もかなりの比重を占めていると思います(もちろん、そもそもの私の能力が…)。その点でご迷惑をおかけしたと思います。
また、前半と後半の難易度のバランスについてももう少し考えてみます。ただ、数学的な内容の難易度は特に変わらないと思います。後半は、確率とか期待値とか金融市場モデルとか、なんとなく馴染んでいる題材だから安心できているという心理的効果が大きいのかもしれません。あるいは、具体的な計算を多く扱ったためかなとも。


本来、抽象度の高い数学の内容は、私自身の経験でもそうなのですが、講義だけで理解できるということはなく、たくさんの演習を通じて何となく分かった気になり、さらにいろいろ勉強していったときに突然一気に見通しが良くなることがあるという性質のものだと思います。


また、どうしてもいろんな概念を導入するということが必要になり、時間制約もあって、結果的に定理や命題の証明などを端折ってしまうというのは、教える側としても最大のジレンマですね…


でも、難しかったと言いつつ前向きに考えていただいている回答が多かったことは非常にうれしいですね。


2011年度は授業時間数が実質2回増えるので、前半をもう少し丁寧にできるかなと思います。





「初回に説明はあったもののもう少し金融商品の具体的なプライシングの導出方法が多いと考えていた」
「履修前のレベルをはるかに超越していた。基礎なのでもう少し基礎的事項に時間を取って欲しかった」「基礎なのでもう少し基礎的なアプローチもあった方が良かった」
前半の数学の話を削って後半の内容を充実させて欲しかった」

(回答) 「金融数理の基礎」という科目名からすれば、当然の要望だと思います。ただ私自身は、何年も教えているなかで、そもそも集合とか写像とか積分とか、いやそれ以前に「数式と論理で考える」というトレーニングそのものが「金融数理の基礎」という科目に必要な内容だと真剣に思うようになりました。
もちろん、私自身が数学科出身で、数学という視点でファイナンスの問題を眺めることが多かったということが、こうした結論に至った大きな理由だと思っています。


しかし、程度の差はあれファイナンスに関する学術論文には数式や数学的な議論が含まれています。そうした議論を上っ面で理解して済ませることも可能ですが、きちんと理解しようとするためには、抽象的な数学の議論に接したことがあるというのはアドバンテージだと思うのです。それは「この記号の定義は何だっけ?」「仮定や条件は何だっけ?」「この数式タイポじゃないの?」「必要条件と十分条件を取り違えたような議論をしているな」…といったような思考として現れてくるものだと思います。つまり、数式の結果を鵜呑みに出来なくなるとか、いい加減な議論をすんなり受け付けなくなる体質になるということこそが、この授業の成果だと思っています。


あと、藤田先生の「金融数理」「派生証券理論」では、具体的な計算をたくさん扱うという内容になっていると思いますので、私の授業でのモヤモヤの一部は解消されるかと思います。もちろん、藤田先生ももっと独自のワールドを作られると思いますが。






「手書きは、授業に集中できず理解しにくくなるので正直やめて欲しい。ある程度理解度がある人にとっては手書きしながら整理できるので有効と思うが、自分には書くことに精いっぱいで説明を聞く余裕がなかったので理解度は低い」


(回答)板書については、いつも賛否両論いただいていて、板書スタイルを肯定する意見もいただいています。プレゼンテーションスタイルで授業をすることももちろん可能ですが、私は「数学」に重きをおいた授業では、板書を基本にすべきという(古い)考えをもっており、このスタイルを変えるつもりは申し訳ないのですが今のところありません。
 その場で分からなくても、徹底的に書いていくということが、結果的に短時間でいろいろと吸収するために必要な要素に思えます。教育学的な根拠はまるでありませんが。
 人の話を聞いて要点を整理しながら、90分くらい集中してひたすらメモをとり続けるという作業は、むしろ実務でこそ必要な能力だと思うのですが…




「絶版の本を教科書に指定しないでほしい」
「教科書の設問の評価が低いのは、教科書を手に入れられなかったから」
「準テキストは非常に読みにくかった。行間を深く読み解けられない、今現在も」
「テキストは購入できるものを選んでもらいたい」


(回答) 教科書が絶版状態だったということに気づくのが遅く、ご迷惑をおかけしてすみませんでした。2011年度も『測度と積分』をベースに前半の授業をする予定にしています。最近、Amazonでも購入できるようになったようです。ただ、教科書については最低限のフォローはしたいと思います。
 指定した教科書・準教科書は、分かりやすく説明されているテキストだと私は思って挙げたのですが、合う合わないはどうしても個人差があると思います。そもそも、数学のテキストですから簡単に読めるものではありません。



「中川先生の数学の別の授業(例えばベクトル解析、微分方程式、フーリエ変換等)を受けてみたい」
(回答) さすがにそこまではやりすぎかと… ただ、確率積分の導入、伊藤の公式あたりまでのショートカット・コースというのは考えてみたいと思います。

2 件のコメント:

Unknown さんのコメント...

Feed Backありがとうございます。
このようなやり取りこそ、必要と考えますので、改めて御礼申し上げます。
尚・・・”秋”だと思います。

中川 さんのコメント...

ご指摘ありがとうございました。直しました。