2010年5月18日火曜日

「フィ ナンシャル・リスク・マネジメント」第6回フォロー(更新)

もろもろのファイルはをイントラネットにアップしておきまし た。参考にしてください。
(プレゼン資料の中で LGD (Loss Given Default) とすべきところが LDG となっているという指摘をいただきました。直していませんが、あしからず)

次回のレポート課題は配付資料の問題2です。
数学の議論が中心のものですので、きちんと解答するのは難しいかもしれません。
ただ、全部はできなくても一部の条件をチェックすることは可能だと思いますので、チャレンジしてみてください。

第5回の課題についてのレポートを 提出してくれた方のidは以下の通りです。提出したのに自分の id が載っていないという人は至急連絡ください。

IM09F001, IM09F002, IM09F006, IM09F007, IM09F009, IM09F022,
IM09F023, IM09F025, IM09F026, IM09F031, IM09F037, IM09F038,
IM10F030, IK01F001, IK01F0012

なお、前回のGreeksに関して、ボラティリティの2回微分で表された Vomma/Volga というのは、通貨オプションのボラティリティスマイルなどを考えるときに実務ではけっこう使われているという情報をいただきました。大変参考になりました。ありがとうございます。

以下、前回レポートをチェックしていてのコメントです。

問題3、に関して私がチェックしたかったポイントは「逆行列が具体的にどのように書けるか」ではなく、「逆行列をどのように計算したのか」ということです。もちろん、EXCELやRやMatlabには、逆行列を計算する関数が組み込まれているわけで、どのような関数を使ったかを明示してほしかったです。
(3次正方行列なので、いわゆる掃き出し法を使って手計算した人もいるかもしれませんが、そうした記述は見あたりませんでした)

問題4は、ヨーロピアン・コールのBlack-Scholes公式およびGreeks(デルタ、ガンマ、ベガ)を公式通りに使えば問題ないはずですが、微妙に間違えている人が目立ちました。

計算プログラムのコードをレポートに付けてくれた、あるいは計算法を具体的に書いてある方については、明らかなミスや怪しいところを指摘しておきます。
(割るべき変数がかけ算になっている(例えば、分母が「ab」の式を計算したければ、「/(a*b)」とすべきなのに、「/a*b」としてしまっているとか、密度関数を使うべきところが分布関数になっていたりとか、そういう単純なものはすぐ分かりました)

また、ヘッジ戦略については、デルタ・ヘッジは押さえたうえで、ガンマとベガについてどう考えるかを議論してほしかったです。ガンマとベガもニュートラルにするためには、問題3で示したように、普通別の2種類のオプションが必要になってくるはずです。しかし、オプションを購入すると、デルタもくずれるので、原資産の株も取引しないといけなくなります。また、オプション購入費用がかかりますから、ヘッジ全体のコストは、オプションのプレミアムと見合うかなど、いろいろと考えてほしかったのですが、そこまで細かく議論した解答はありませんでした。

あと、単に「○○ニュートラルにするようにヘッジすればよい」といった教科書的な説明が書かれているものもありましたが、その具体的な方法を検討してほしかったです。もちろん、これには唯一の正解というものはありませんから、なぜその方法がよいと判断したかという説明がむしろ重要になってきます。
デルタ、ガンマ、ベガを数値で計算してもらっているので、いちおうその数字に基づいた議論をしてほしかったです。

オプショナル問題についても解答しているレポートは多数ありました。
実は、この問題に関する模範解答が、ネットで(しかも日本語で)入手できます。そのことを正直に指摘してくださった方も何人かいました。
私はもちろんそのことを知っています。そもそもHullのテキスト"Options, Futures and Other derivatives" については英語版の解答集(Questions and Problems の解答だけで、後半のAssignments の解答はなかったと思いますが)が本としても売られていますので、学生がHullのテキストの答えをネットで探すということは、折り込み済みです。

私自身は、宿題の答えをネットや他の文献や他の人に聞く行為自体は特に悪いとは思いません。
(そうした行為を禁じている先生もいらっしゃいますから、積極的に薦めはしませんし、自力で考えて解くに超したことはありません)
そもそも私自身も課題として出題するにあたって、そうした模範解答(英語版の方を見ていましたが)を参考にしているわけです。

ただし、理解せずにただ他の解答を丸写ししてあるレポートは「コイツ丸写ししたな」ということはバレバレです。
解答を参考にしても、自分の言葉で表現することが大事であり、きちんと理解していれば模範解答よりも優れた自分なりの表現をすることができるはずですし、その解答自体への批判も可能だと思います。
その意味では、自分で考えたと思われる解答が多く、採点は苦労しましたが面白かったです。

先物をショートして小麦価格の下落リスクをヘッジしようとするのが考え方の是非を考えるという問題ですが、模範解答のポイントは、先物を使うということは、実質的に「予定収穫高×先物価格」で将来の販売収入をこの段階で確定してしまうということに気づくかどうかです。
小麦価格下落時にはヘッジになりますが、小麦価格上昇時にはもっと高く売れた可能性を逃すことになるという点で、そもそも損も回避できるが得する機会もなくすという点は先物ヘッジである以上は仕方ないことです。
解答の中には、「価格上昇すると先物で損するから・・・」というロジックを持ち出してあるものがありますが、それ自体はこの問題の論点とはずれています。

ポイントして挙げたように「予定収穫高×先物価格」であたかも将来の収入を実質的に現時点で確定させることができているように見えて、実は「予定収穫高」自体は天候などに左右されて確定できていないというところに目を向けるというのが模範解答的には大事なことです。
さらに、悪天候の場合には実質収穫高も減り、その結果小麦価格も上昇し(当然それにつれて先物価格も上昇)するというシナリオの蓋然性が高いところがフォーカス・ポイントです。

小麦農家といえど、先物は満期前に反対売買をしてポジションをクローズするとなれば、先物を高く買い戻すことになって先物で損は出ます。しかし、予定収穫高どおりの収穫があれば、それを高い価格で販売することで、現物を売った方で想定よりもうけがでます。それらの損益が相殺されて、結局「予定収穫高×先物価格」だけ収入があります。
しかし、実際には予定収穫高より少ないものしか売るものがない一方で、先物は予定収穫高にあわせてポジションをとってますので、少ない現物を高値で売っても先物損を相殺しきれず、先物損がある程度残ってしまう、ということになる可能性が高いわけです。

要するに「予定収穫高の変動リスクは直接的には先物でヘッジできず、それ自体が価格変動リスクの主原因でもある」ということを認識したうえで、先物を使うことの有効性みたいなものを論じるというのが模範解答のエッセンスだと思います。

レポートの中では、そうしたことに言及して、悪天候に関しては、天候デリバティブを使うことを提案するというものがあり、それは興味深いと感じました。
ただし、実際の天候デリバティブは、気温とか降水量とかいろいろな気象数値ごとに条件を考えなければなりませんし、本当の異常気象に対する保険という意味合いは弱いはずです。
また、気象は安定していても、虫害とか病気とかでの凶作はヘッジできないはずです(そういう保険はあるのかもしれませんが)
また、天候デリバティブはある程度保証額に上限もありますし、実損を全額カバーしてくれるものではないのが一般的だと思いますので、そのことも注意ですね。

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