前回の論文に関連するものとして、今回読んだのはこちら。付録を除けば20ページの内容。記号の意味を注意深く確認しながら読まないといけないが、それほど数学的に難しい議論をしているわけではないので、記号や議論の仕方に慣れればサクサク読める。
Structural approach with incomplete information に属するモデルで、経営者が意図的に会計情報を操作して、その企業の資産価値についての不正確な情報を外部に伝える、という状況をモデルで表現している。先行研究で、会計の不透明性に対する risk premium が実証的に見いだされてきたことを挙げ、その内生的構造をモデル化しようというのがモチベーション。
具体的なモデルについて大まかに述べると、経営者は有限個の会計報告パターン(おそらくは利益の過大申告(程度も何段階かある)、過少申告(程度も何段階かある)、正直申告、のような選択肢を考えているのだろう)から毎期選択して、意図した形で会計情報を市場にアナウンスする。
その報告パターンによって、実際の資産価値の挙動の様子も変わる。また、市場では実際の資産価値に、報告パターンに依存したノイズが加えられた形で観測される。
外部からは、経営者がどういうパターンで報告したかを知ることはできないが、市場で観測される情報をもとにして、真の資産価値と報告パターンの条件付き密度関数(filtering density) を計算することができれば、このモデルにおける株式や割引債の価値を算出できるという流れになっている。
Black-Scholes 式の中の原資産の現在価値が不確実なので、求めた filtering density で原資産の現在価値についてもう1回積分する形で表されるので、結果に表れる式自体は特に不思議ではない。
ただし、filtering density の計算式を直接数値計算で実行するのは難しいので、適当な近似を考える必要があるということで、論文の後半はそれぞれの要素の近似方法について議論している。
アイデアは Capponi(2008)による方法らしく、unnormalized density を前もって選んでおいた Gaussian densities の weighted sum で近似しようというもの。この辺になるとプログラムに落とそうという気持ちがないと興味がわかないので、ていねいに読んでません。手の動く学生にきちんと読んでもらってついでに実装してもらうのがよいかも。
filtering approximation scheme が確立すれば、デフォルト確率や期待回収率やスプレッドの期間構造も、適当な weightd sum の形に書けますよ、という話が次にきて、最後はイタリアの食品大手で破綻してしまった Parmalat の事例分析を紹介している。そこでは、会計不正を考慮したモデル化をしないと、資産過程のボラティリティをかなり大きめに推定してしまうこともある、というようなことを主張している。
付録の証明などはきちんと見てません。
自分では、この論文を今のところさらに詳しく読む予定はないですが、会計情報と株価(あるいは社債価値)の関係に関心があり、そこそこの数理ファイナンスの知識がある計量ファイナンス系の学生の方には参考になる論文かもしれません。
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