2008年12月26日金曜日

「ファイナンシャル・リスク・マネジメント」2008年春学期の総括

遅くなりましたが、学生の皆さんの授業評価コメントに基づいて、春学期に行った「ファイナンシャル・リスク・マネジメント」の反省を述べ、部分的に来年度以降の授業でどのように改善していくかを考えたいと思います。

全体的には、好意的に評価していただきました。
(期末試験前に回答していると思うので、最終成績によって評価が180度変わった人もいるかもしれません・・・)

以下、いくつかの学生コメントおよびそれに対する回答です。
コメントは原文ではなく、適宜、要点が分かるように私がまとめています。

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「第11回~13回(信用リスクの数理モデルのところ)の内容をもっと詳しくやってもらいたかった」
「以前の『信用リスク』の授業をカバーするという意味では不足」
(回答)カリキュラム評価の方にも「市場リスクと信用リスクは、別々の授業でそれぞれ扱ってほしい」という趣旨のコメントがあり、それと関係するコメントですね。
昨年度までは「市場リスク」を長山先生、「信用リスク」を中村先生が別々に担当していて、「市場リスク」を履修していた人の中には、「信用リスク」にどっぷりつかりたいと思っていたのに・・・とがっかりした人もいるかと思います。
また、それとは別に1コマ分の授業に無理につめこんだために、それぞれのトピックが表面的にしか扱われなかったという不満をもった方もいるでしょう。

残念ながら来年度も「ファイナンシャル・リスク・マネジメント」という一つの授業で「市場リスク」も「信用リスク」も扱うことになります。
ただし、内容については見直して、信用リスクの数理をもう少し詳しく扱えるようにしたいと思います。
具体的には「確率論・統計学の復習」「オペレーショナル・リスク」について、1回分の授業を使うことをやめようと思います。あと、中間試験も無しにしようと思います。それで3回分浮くので、それをもう少し有効に使いたいと思います。

あと個人的な意見ですが、純粋に「市場リスク」をネタにして1学期もたせようと思うと、リスクというより統計の応用のような側面が強くなってしまうと思いますし、細かい話が多くなってくると思います。
また、「信用リスク」だけで1学期分ひっぱるためには、数理的に面倒なところ(要するに情報の構造の取り扱い)に入っていくことになります。授業として、そこまでカバーすべきかという点には少しひっかかります。
また最近では、「統合リスク」「リスクの資本賦課」「ERM」のような話題も出てきていますし、金融リスクをまとめて俯瞰する姿勢も大事に思います。
(問題は、それをナビゲートする役割として私自身が未熟だということですが・・・)

「プレゼン資料は予めイントラにUPしてもらえると良かった。ブログを活用されていますが、会社からはブログを見ることはできないので、イントラを活用してもらえると助かる」
(回答)プレゼン資料を前もってUPできるように努めます。また、ブログではなくイントラの活用ということですが、これについては検討させてください。もちろん、イントラを活用すべきことについては積極的に使いますが、ブログのメリットもありますし。
ブログのコンテンツをイントラに回すことも可能ではありますが、ブログの記事は気軽に修正できるため、そのたびにイントラの方もというのは大変なので避けたいというのが本音です・・・

「中川先生に他の分野についても授業をしてほしい。例えば、初級レベルの数学(特に確率過程)を上級レベルにつなげるような内容の授業をしてほしい」
(回答)最大の賛辞と受け取ります。ありがとうございます。ただし、現実に授業コマを増やすことについては・・・ 私大の先生に比べると授業負担は非常に 軽いかもしれませんが、社会人大学院生を相手にすると1コマ分の授業に対する準備やフォローを含めて、それなりに大変です。
とはいえ、他の授業評価やカリキュラム評価でももう少し数学をきちんとやりたいというニーズはあるようなので、単位にはならないが、集中的に何かのトピックをレクチャーする機会は作れると思います。

「金融数理の基礎」2008年春学期の総括

遅くなりましたが、学生の皆さんの授業評価コメントに基づいて、春学期に行った「金融数理の基礎」の反省を述べ、部分的に来年度以降の授業でどのように改善していくかを考えたいと思います。

全体的には、好意的に評価していただきました。
(期末試験前に回答していると思うので、最終成績によって評価が180度変わった人もいるかもしれません・・・)

以下、いくつかの学生コメントおよびそれに対する回答です。
コメントは原文ではなく、適宜、要点が分かるように私がまとめています。

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「テキストと同じ部分の板書はもう少し減らせないだろうか。」
(回答)授業に臨んだほとんどの人がテキストを購入したと思いますが、必携を条件にしていたわけではないので、板書は板書として self-contained になるように心がけています。
また、板書内容をノートに全て書き写す必要はないので、聞く側でノートに書く内容を取捨選択してくれれば結構です。
あとは、教える側のリズムの問題で、テキストの書き写しに近いことでも自分で書くほうが話しやすいという気が個人的にしています。

「ペースが速くついていくだけで精一杯だった」
「後半少しスピード飛ばした感があった」
(回答)授業のスピードについては教える側も悩むところですが、1学期を通じてこの範囲をカバーしたいというのが先にあって、それを各回の授業に割り振るという感じなので、これ以上ゆっくり進めるというのは難しいと思っています。もちろん、そのときの学生さんの全体的な反応を見て、予定よりゆっくり進めることはあると思います。
ただし、授業だけで全てを理解したいというのは甘いと思います。予習復習が必要だと思います。

後半のスピードが早く感じるのは、前半の土台部分は時間をかけてできるだけ確実に理解してもらえるように配慮しているのと、後半の内容が否応なくレベルが上がっているので、前半理解が速かった人でも後半の内容が腑に落ちるまでに時間がかかるようになっている、という2つの理由が大きいと思います。

「板書が早い。宿題の模範解答がほしかった。」
(回答)板書のスピードについては、毎年指摘を受けるので改善はしたいと思っていますが、1時間に教える分量を考えると、自然にあのくらいの速さになってしまいます。書く内容を絞ればよいのでしょうが、最初のコメントへの回答でも書いたように、板書を self-contained にすることへのこだわりもあるため、大幅に絞るのは難しいと思います。
他の授業のように、私のノートを配付資料にしてすることも可能ですが、ファイナンスにとっての読み書き算盤のような位置づけの授業なので、手を動かして理解することも大切だと強く考えています。
(学生のどなたかが私の板書を TeX でまとめてくれることを密かに期待していたりして・・・)

宿題の模範解答については、私が考える解答のポイントは授業やブログ等で示しています。
完全なものを用意すると、学ぶ側は楽でしょうが、少しでも自分で考える余地を残す方が教育的だろうと勝手ながら思っています。

「板書見えにくい」
(回答)私の字が小さめで汚いというのが最大の理由かと思います。毎年の反省点です。
責任転嫁気味ですが、教室のホワイトボードが小さいことが、字が小さめになっている原因かと思います。
いずれにしても、私も見やすさを意識していきますが、読みにくいところがあれば、遠慮無く指摘してもらえればと思います。


「5章ランダムウォークは、もう少し時間をとって欲しかった。」
「できればテキスト第1巻をほぼ全てカバーして頂きたかった」
(回答)5章は今年度は授業で扱いましたが、内容は完全に数学ですし、証明もテクニカル過ぎるので、来年度は別のテキストのファイナンスの話題を解説しようと考えています。
6章は金利の期間構造の話で、2項モデルで金利の期間構造を説明しているテキストは他にあまりありませんので、紹介したいところですが、4回分くらい費やさないと消化できそうにないですし、数理ファイナンスの準備としては発展的話題なので見送るつもりです。本音としては、自分が、金利の期間構造をこれまで上手に教えてこられなかったというコンプレックスもありますが・・・

「シュリーブの2巻の授業もあったらいい」
(回答)これについては、藤田先生の「金融数理」で内容的には2巻の前半部分はカバーされていると思っています・・・

「中川先生にはもっと授業のコマを持ってほしい」
(回答)最大の賛辞と受け取ります。ありがとうございます。ただし、現実に授業コマを増やすことについては・・・ 私大の先生に比べると授業負担は非常に軽いかもしれませんが、社会人大学院生を相手にすると1コマ分の授業に対する準備やフォローを含めて、それなりに大変です。
とはいえ、他の授業評価やカリキュラム評価でももう少し数学をきちんとやりたいというニーズはあるようなので、単位にはならないが、集中的に何かのトピックをレクチャーする機会は作れると思います。

良いお年を

本日26日(金)が事実上の仕事納めになります。
とりあえず、年越しで持ち越す仕事は極力減らすことができました。

年明けは5日(月)から始動します。
1月いっぱいはおそらく修士論文の指導が中心になります。
その後3月いっぱいまでは、大学でのこの時期特有の行事も多くありますが、自分の研究をできるだけ進めていきたいと思います。

皆様良いお年を。

M1ゼミ(10月~12月)

秋学期のM1ゼミでは、特定のテキストや特定の論文を輪講するということは難しいと判断して、
1回90分のゼミで2名ずつ、修士論文につながりそうと考えていたり、あるいは是非読んでみたいと思っていたりしている学術論文を紹介してもらい、その後に少し議論を行う、というスタイルで行っています。

したがって、一人あたり、論文の概要の紹介に25~30分、議論に10~15分(全体で40分弱)という目算になります。
学期中に、計4回発表することをゼミ単位取得の必要条件としています。
また、必ずしも一回のゼミで1本の論文全てを紹介しなくてもよいが、学期中に2本は紹介すること。また、最低でも1本は英語の論文を紹介することを条件にしています。

10月~12月にかけて、ゼミ所属の学生さんが取り上げた論文を以下に挙げておきます。
バラエティに富んでおり、私自身勉強になると同時に、それぞれの論文および発表に対して、有益なコメントをするというのも難しく、ナイーブな質問になってしまうこともしばしばです・・・

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(順不同)

Bollerslev, T., J. Litvinova, and G. Tauchen,
"Leverage and Volatility Feedback Effects in High Frequency Data,"
Pre-Print (2004)

Duan, J.-C.,
"The GARCH Option Pricing Model,"
Mathematical Finance, 5(1), 13-32 (1995)

Hardle, W. and C. M. Hafner,
"Discrete time option pricing with flexible volatility estimation,"
Finance and Stochastics, 4, 189–207 (2000)

Bollen, N. P. B. and R. E. Whaley,
"Does Net Buying Pressure Affect the Shape of Implied Volatility Functions?"
The Journal of Finance, 59(2), 711-753 (2004)

Dennis, P. and S. Mayhew,
"Risk-Neutral Skewness: Evidence from Stock Options,"
Journal of Financial and Quantitative Analysis, 37(3), 471-493 (2002)

Aue, F. and M. Kalkbrener,
"LDA at work: Deutsche Bank's approach to quantifying operational risk,"
Journal of Operational Risk, 1(4), 49–93 (2006)

Hull, J., M. Predescu, and A. White,
"THE RELATIONSHIP BETWEEN CREDIT DEFAULT SWAP SPREADS, BOND YIELDS, AND CREDIT RATING ANNOUNCEMENTS,"
Working paper (2002)

Feldhütter, P. and D. Lando,
"Decomposing swap spreads,"
Journal of Financial Economics, 88(2), 375-405(2008)

Ang, A. and M. Piazzesi,
"A no-arbitrage vector autoregression of term structure dynamics with macroeconomic and latent variables,"
Journal of Monetary Economics, 50, 745–787 (2003)

Chen, L., Lesmond, D.A. and J. Wei,
"Corporate yield spreads and bond liquidity,"
The Journal of Finance, 62(1), 119-149 (2007)

Leland, H. E.,
"Corporate Debt Value, Bond Covenants, and Optimal Capital Structure,"
The Journal of Finance, 49(4), 1213-1252 (1994)

鈴木一功,
「コントロールプレミアムに関する考察」,
証券アナリストジャーナル 2005年7月, 68-77 (2005)

Zingales, L.,
"The Value of the Voting Right: A Study of the Milan Stock Exchaneg Experience,"
The Review of Financial Studies, 7(1), 125-148 (1994)

Loderer, C. and L. Roth,
"The pricing discount for limited liquidity: evidence from SWX Swiss Exchange and the Nasdaq,"
Journal of Empirical Finance, 12, 239-268 (2005)

刈屋武昭,
「企業の価値創造経営プロセスと無形資産」,
RIETI Discussion Paper Series 06-J-016 (2006)

山崎尚志,
「ERMへのファイナンス的アプローチ」,
損害保険研究, 70(3), 23-40 (2008)

2008年12月18日木曜日

論文メモ(その6)

今回目を通した論文はこちら

本当は、こっちを先に読んでおくべきなのだろうが、ぱっと見た印象で取っつきやすそうだったので、前者をまず選択した。

CDS に対する standard market model を設定して、
CDS option (というか、最近は Credit Default Swaptions とか CDS swaption と呼ばれることが多いようだ)の価格付け式や、Constant Maturity CDS 評価の近似式などを論じている。

ざっくり言えば、金利デリバティブの評価において、通常の money market account を numeraire とする risk-neutral measure でなく、満期がCFのタイミングにうまく対応している discount bond を numeraire とする forward risk-neutral measure で考えるというようなことを、CDS spread に絡むデリバティブ評価でも考えようというもの。

CDSwaption をリスク中立確率の下で表現したときに現れる "defaultable present value per basis point" と呼ぶべきものを numeraire とすることで、equivalent な測度変換が可能で、最終的に、CDSwaption に対して、いわゆる「Black 公式」を用いた表現ができるということを示している。
(idea は Jamshidian(2004) によるものらしい。Schonbucher(1999) は defaultable bond そのものを numeraire と考えたため、risk-neutral measure との同値性が保証されない状況で考えているとのこと)

Constant Maturity CDS 評価については、いわゆる BGM モデル(論文では、LIBOR market model)の枠組みで、CDS spread 変動のドリフトは CDS spread の水準にはほとんど影響しないという仮定と、足下の spread が forward CDS spread の一次結合で近似できるという仮定によって、扱いやすい近似評価式を導出している。

empirical な分析もしているが、きちんと見ていない。
また、数学的な議論の確認も例によって端折ってしまっているので、「読んだ」レベルではない。

おそらく、数学的な議論としては、この論文この論文で、先行研究が消化・昇華された形でまとめられているのだろう。CDS pricing およびその周辺の数理の進展はしっかり勉強したいところだが、後回しになっている。

#回によって、ですます調になっていたり、今回のようにである調だったり、していますが、その違いは書いているとき微妙なメンタリティが反映されています・・・

2008年12月16日火曜日

論文メモ(その5)

今回目を通した論文はこちらの3本目。

信用リスク研究において、intensity-based モデルを用いて default contagion を表現する方法として、私個人としてはGiesecke 流の top-down 的な方法論の可能性を研究していますが、 今回紹介する論文は bottom-up の視点でモデル化しています。

CDSのプレミアムや k-th-to-default swap のプレミアムの計算が目的ですが、
computational finance の話題に重点が置かれていて、自分たちが提案している大規模行列モデルをimplement するための限界というか実務での落としどころを探っているような書き方という印象で、読んでいて面白いです。

この論文で採用しているデフォルト強度は、ポートフォリオ内の他の企業がデフォルトした時点で、そのデフォルト企業との関係で決まる量だけ強度がジャンプするというもので、Markov jump 過程の形で定式化できることを数学的に主張しています。
彼らが言う状態とは、m 個の企業のデフォルト状態を 0 or 1 を成分とする m 次元ベクトルで表すものなので、状態数は 2^m 個ということになっています(彼らは数値計算例では m = 15 までトライしている)。

結果的に、デフォルト強度はそれまでにどこの企業がデフォルトしているかだけに依存した形になっています。どういう順番でデフォルトしたかを反映させることはモデル上は可能だが、定式化が煩雑になり、実際の計算量が爆発的に増加するとコメントしています。また、Hawkes モデルのように、強度がデフォルトした時刻に依存するものは、彼らの枠組みでは扱いにくいというコメントもあります。

k番目のデフォルト時刻の分布および、k番目のデフォルト企業の確率を計算するために、大規模な行列計算を用いた分析法(matrix-analytic approach)を導入しています。そのあたりの計算ロジックはきちんと見ていませんが、R とか matlab とかでは実装しやすい感じになっていると思います。

数値実験においては、15のTelecom 企業の5年CDS スプレッドを用いて、それぞれの銘柄の初期デフォルト強度だけを (semi-)calibrate しています。 contagion に関するパラメータ(dependence matrix)は所与としており、そのせいで "semi-"calibrate と書いています。
7章で、dependence matrix を推定/calibrate するための方法についていくつか挙げています。

あと、計算上は行列のexponential の計算が避けられませんが、それについては uniformization method(randomization method) が、大規模かつ sparse な行列に対するexponential の計算には、他と比べて実装しやすいと述べていて、そのアルゴリズムを紹介しています。

最後に、20 obligors までは直接この方法が適用できるだろうとということと、より大きなポートフォリオに対しては、対称性の利用やsubportfolio への分割が考えられるとして締めくくっています。

2008年12月12日金曜日

論文メモ(その4)

日経新聞12/10朝刊の「経済教室」で紹介されていたこちらに目を通してみました。

論文の概略は、「経済教室」に書かれていたとおりなので触れません。
銀行の合併と倒産リスクへの影響という研究テーマには関心がありますが、この論文で紹介されている実証研究に基づく主張にはあまり興味がわきませんでした。日本の有名な都市銀行合併のケースだけを扱っていて、そうした事例にはいろいろな意味での先入観があるからかもしれません。
それでも、こうした研究の方法論を提示しているという点で貢献があると思いました。

関心があったのは、DD(Distance to Default)をどのように算出しているか、という技術的なところです。金融機関を対象にしているので、負債項目が一般事業会社のそれと異なるという点はあるものの、フレームワークは Merton モデルのそれと全く同じで特に補足することはありません。

銀行資産の現在価値(および過去時点の価値)とボラティリティの推定方法は、Crosby-Bohn(2002)に紹介されている KMVが採用しているとされている方法です。

株式価値を、資産のヨーロピアン・コール・オプション(負債価値を権利行使価格)だと見なすのは同じで、株価をインプットすることで、資産の現在価値とボラティリティを未知パラメータとする方程式を作るわけです。ただ、これだけだと解けないので、もう一つ方程式を作るわけで、レバレッジを勘案して、株価のボラティリティと資産価値のボラティリティの関係式からもう一つ方程式を作る方法もありますが、
この論文では、ボラティリティを、資産価値の過去データによる対数収益率の標準偏差として定義するという方法を採用しています。

最初に資産価値の時系列の初期値を与えて、それから対数収益率を計算してボラティリティの推定値を統計的に求め、それをB-S式にインプットとして新たな資産価値の時系列の推定値を求め、それからまた新しいボラティリティの推定値を求め、収束するまで続ける・・・といったものです。
つまり、Black-Scholes 式と標準偏差の計算式をループするアルゴリズムになります。
(Crosby-Bohnは、最初に ボラティリティの初期値を与えているようです。どちらから始めようと収束するころには分からなくなっているので関係ないのでしょう)

まあ、この辺のことは我々が翻訳した「定量的リスク管理」の第8章に詳しく書かれています・・・

2008年12月11日木曜日

論文メモ(その3)

この前の大阪出張の行きの新幹線で読んだ論文がこちら

ここしばらく、信用リスクでは Giesecke 氏の論文をフォローしているわけですが、経歴を見ると彼の方が若干年下のようで、私自身もっと精進しなければいけません・・・

信用リスクの Top-down approach での self-exciting intensity についての simulation などが直接の応用例として考えられます。

彼らが提案している方法のベースとなるのは、「(完全情報下での)強度λをもつ点過程のジャンプ時刻の同時分布は、その点過程から生成される自然なフィルトレーションへの λ の optional projection を強度とする点過程のジャンプ時刻の同時分布が同じ」という数学的命題です。

結果的に、元々ジャンプ拡散過程などで強度過程λをモデル化しても、実際にλに従って、イベント時刻を発生させようとした場合には、拡散項のブラウン運動のパスを発生させたりする必要はなく、一般に「過去のイベント時刻とジャンプサイズの関数」として表される、射影された強度に従ってシミュレーションすればよいので楽になるということです。

問題は、その射影された強度が容易に得られるかどうかになりますが、その点については affine point process (強度が Duffie,Pan, Singleton(2000) でいうところの affine jump-diffusion process で与えられているもの)で、具体的に計算しています。
条件付の Laplace 変換を計算していくなかで、例によって Riccaci 型の連立ODEが出てきて、その解を用いて表現するという流れになっています。

数値例としては、Riccaci が明示的に解ける例(CIR型 に self-exciting なジャンプ項がくっついた形)でシミュレーションによる sample path の例が載っています。

自分の研究に関係するところなので、この方法でシミュレーションする必要が生じた段階になったら、もう一度詳しく検討したいと思います。(今考えているモデルは拡散項を入れておらず、 λ の optional projection が λ 自身になっているので、この論文の方法を参考にしなくてもよいのです)

この論文の内容については、こちらのリサーチ部門の方が詳しいと思いますし、もっと発展的なことをされているのではないでしょうか?

2008年12月10日水曜日

論文メモ(その2)

前回の論文に関連するものとして、今回読んだのはこちら。付録を除けば20ページの内容。記号の意味を注意深く確認しながら読まないといけないが、それほど数学的に難しい議論をしているわけではないので、記号や議論の仕方に慣れればサクサク読める。

Structural approach with incomplete information に属するモデルで、経営者が意図的に会計情報を操作して、その企業の資産価値についての不正確な情報を外部に伝える、という状況をモデルで表現している。先行研究で、会計の不透明性に対する risk premium が実証的に見いだされてきたことを挙げ、その内生的構造をモデル化しようというのがモチベーション。

具体的なモデルについて大まかに述べると、経営者は有限個の会計報告パターン(おそらくは利益の過大申告(程度も何段階かある)、過少申告(程度も何段階かある)、正直申告、のような選択肢を考えているのだろう)から毎期選択して、意図した形で会計情報を市場にアナウンスする。
その報告パターンによって、実際の資産価値の挙動の様子も変わる。また、市場では実際の資産価値に、報告パターンに依存したノイズが加えられた形で観測される。

外部からは、経営者がどういうパターンで報告したかを知ることはできないが、市場で観測される情報をもとにして、真の資産価値と報告パターンの条件付き密度関数(filtering density) を計算することができれば、このモデルにおける株式や割引債の価値を算出できるという流れになっている。

Black-Scholes 式の中の原資産の現在価値が不確実なので、求めた filtering density で原資産の現在価値についてもう1回積分する形で表されるので、結果に表れる式自体は特に不思議ではない。
ただし、filtering density の計算式を直接数値計算で実行するのは難しいので、適当な近似を考える必要があるということで、論文の後半はそれぞれの要素の近似方法について議論している。

アイデアは Capponi(2008)による方法らしく、unnormalized density を前もって選んでおいた Gaussian densities の weighted sum で近似しようというもの。この辺になるとプログラムに落とそうという気持ちがないと興味がわかないので、ていねいに読んでません。手の動く学生にきちんと読んでもらってついでに実装してもらうのがよいかも。

filtering approximation scheme が確立すれば、デフォルト確率や期待回収率やスプレッドの期間構造も、適当な weightd sum の形に書けますよ、という話が次にきて、最後はイタリアの食品大手で破綻してしまった Parmalat の事例分析を紹介している。そこでは、会計不正を考慮したモデル化をしないと、資産過程のボラティリティをかなり大きめに推定してしまうこともある、というようなことを主張している。

付録の証明などはきちんと見てません。

自分では、この論文を今のところさらに詳しく読む予定はないですが、会計情報と株価(あるいは社債価値)の関係に関心があり、そこそこの数理ファイナンスの知識がある計量ファイナンス系の学生の方には参考になる論文かもしれません。

2008年12月8日月曜日

論文メモ(その1)

最近ブログの更新をさぼっています。
もともと授業についての情報提供を目的としているので、授業がない今学期は休眠状態でもよいのですが、自分のためになるかと思い、読んだ論文の概要でも書いていこうと思います。
これも何回かで企画倒れになる可能性は高いですが。

今日読んだのは、こちらの論文。証明部分を除いて本文が10ページなので、すぐ読めます。
Structural approach with incomplete information の範疇の信用リスク・モデルについて、delayed filtration という概念で整理しようという論文。ただし、「連続型」と「離散型」という2つのタイプの delayed filtration を定義し、これらが本質的に異なるものであることを主張しています。

「連続型」delayed filtration は、time-change によって実際の時刻よりも過去の情報が到着するようなもので、情報は遅れながらも連続的に更新されていくようなもの。
一方、「離散型」delayed filtration は、イベントが発生しないと情報が更新されないようなもので、本質的に marked point process から生成される自然な filtration のようなもの。

また、それぞれのタイプについて delayed filtration の例を挙げて、具体的な停止時刻(要はデフォルト時刻)の強度表現を求めています。強度を求める際に、「瞬間的なデフォルト率」という直感的な見方(Meyer's Laplacian approximation という呼び方が Aven によってなされたようです)を用いています。しかし一般には、瞬間的なデフォルト率として得られたものが、停止時刻の compensator のRadon-Nikodym 微分と一致するとは限らないので、その辺は Aven の定理を持ち出して注意深く議論しています。

Appendix の証明はざっと目を通しただけです。